「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」開幕レポート。五感を刺激するアートの祭典【3/5ページ】

 東京とベルリンを拠点として、国内外で活躍する手塚愛子。織物の糸を解いて構成されるその作品は、歴史の重層をひも解き新たな視座を与える可能性を提示する。本展では明治以降の近代化によってもたらされた西洋の価値観と、そのなかで生まれた芸術や文化のねじれを体現するかのような作品が並ぶ。

展示風景より、左から手塚愛子《必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)-04》、《親愛なる忘却へ(美子皇后について)-01》(2019)

 例えば、明治期に洋装化を進めた美子皇后を題材にした《親愛なる忘却へ(美子皇后について)-01》(2019)は、皇后が詠んだ「外国のまじらひ広くなるままに おくれじとおもふことぞそひゆく(外国との交流が増えるたびに遅れてはなるまいという思いが強くなる)」という歌などを織り込んだ巨大なジャカード織のマントをトルソーへ巻き付けた作品だ。そのシルエットはどこか平安時代の十二単を思わせ、西洋文化追従への焦り、失われた日本の王朝文化が、アンビバレントに同居する。

展示風景より、手塚愛子《親愛なる忘却へ(美子皇后について)-01》(2019、部分)

 ほかにも欧米の遠近法により描かれた風景画のタペストリーのうえに、鎖国期の日本地図を重ねて解きほぐし《学ぶことと戻れなさについて(遠近法)》(2025)や、明治以降、日本文化をモチーフにした輸出産業として人気を博した薩摩ボタンをモチーフに、演じられた日本像とそれを生み出した権力や情勢を浮かび上がらせた《必要性と振る舞い(薩摩ボタンへの考察)-04》などが会場では並ぶ。一見すると非常に美しい手塚の作品群だが、そこには日本の近代化における複雑な状況と、その上に立つ現代日本の捻れがたち現れている。

展示風景より、手塚愛子《学ぶことと戻れなさについて(遠近法)》(2025)

 本展のアーティスティック・ディレクターを務める森山未來は「近江ARS(アルス)」で編集工学を提唱した思想家・松岡正剛と出会った。森山は『日本という方法』や『擬』といった著書で松岡が提唱した「別様に世界を見る視点(別様の可能性)」に影響を受け、自身の身体表現に「うつわ」や「間」といった日本的感性を取り入れてきた。

展示風景より、『遊』全50巻の展示

 本展では『遊』全50巻の展示や松岡の音声体験に加え、松岡が森山に宛てた「アルス・コンビナトリア」を起点とした写真作品《湖独の舞》を紹介。森山が実践してきた「言語と身体の往還」を、本展のコンセプトと共鳴させる。

展示風景より、濱田祐史《湖独の舞》(2023)