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国際芸術祭「あいち2025」の注目作品をめぐる。「灰と薔薇のあいまに」をテーマに62組参加【2/4ページ】

愛知芸術文化センター

 現代美術展でもっとも多くのアーティストが集まるのが、名古屋市にある愛知芸術文化センターだ。

 インドネシアのムルヤナは、工場で余った糸を使い、海の生態系をインスタレーション《Sea Remember》として構築。色鮮やかな珊瑚と白化した珊瑚を思わせる、2つのパートが対照的だ。

 杉本博司の代表作のひとつである「ジオラマ」シリーズは、画家の太田三郎、宮本三郎、水谷清による動物たちを描いた大作絵画とともに展示。作品化された動物の生と死、現実と虚構が共鳴する構成となった。

展示風景より

 シリア・ダマスカス出身のハラーイル・サルキシアンは、記憶や歴史、共同体に刻まれた暴力や不在の表現を探求している。ライトボックスがスラリと並ぶ《奪われた過去》は、シリア北部のラッカの博物館が収蔵していたコレクションにフォーカス。同館コレクションは8000点以上を誇っていたが、過激派組織「イスラム国」によって7000点以上が破壊・略奪され、現在は再建された博物館で約40点が展示されているという。本作は、その失われてしまった収蔵品を3Dプリントで甦らせる試みだ。

展示風景より、ハラーイル・サルキシアン《奪われた過去》

 一見美しいバーシム・アル・シャーケルの巨大な絵画作品《スカイ・レボリューション》。これらは、2003年のイラク戦争で作家が実際に目撃した爆撃直後の光景を描いたシリーズの一部。そこには破壊や喪失だけではなく、その先にある未来や生きていることの喜びが込められている。

展示風景より、バージム・アル・シャーケル《スカイ・レボリューション》

 レバノンのダラ・ナセルによる大規模なインスタレーション《ノアの墓》は必見だ。トルコ、ヨルダン、レバノンという3つの都市に伝わるノアの物語に着想を得て、それらを再構築するものだ。作品全体が方舟を思わせる設計となっており、版築はレバノンの墓、ドームはヨルダンの墓、土嚢袋はトルコの墓を象徴している。また染色布には各地のノアの墓で取った拓本や日本の藍染が施されている。

展示風景より、ダラ・ナセル《ノアの墓》

 ロバート・ザオ・レンフイは開発によって一度破壊され、その後自然が回復した場所である「二次林」に注目し、2017年から観察を続けてきたシンガポールのアーティスト。今回は、その観察の集大成であり2024年の第60回ヴェネチア・ビエンナーレで発表された《森を見る》が、《森を見る 2025》として再構成された。

展示風景より、ロバート・ザオ・レンフイ《森を見る 2025》

 クリストドゥロス・パナヨトゥは、美術館のライトコートに300本もの薔薇を植えた。これらの薔薇は品種開発のなかで商品化されなかったもの。種を育て選別するプロセスを浮き彫りにし、選ばれなかったものたちが集う庭として可視化した。

 ブルーシートと民族史的・博物史的なモチーフを組み合わせた作品をつくる久保寛子。巨大な吹き抜けで存在感を放つ《青い四つの手を持つ獅子》は、ヒンドゥー教の破壊と創造を司るヴィシュヌ神をモチーフにしたもので、いままさに起こっている戦争や災害と真正面に向き合う大作だ。

展示風景より、久保寛子《青い四つの手を持つ獅子》

 独自の手法で食品や食材を模した立体作品を手がける札本彩子は、屠殺場に通い、牛肉が解体され私たちの口に届くまでの過程をインスタレーションとして構築した。

展示風景より、札本彩子《いのちの食べかた》

編集部