愛知県陶磁美術館
1978年に開館した、日本屈指の陶磁専門の美術館である愛知県陶磁美術館。谷口吉郎建築としても知られるここでは、陶を中心とする意欲作が揃う。
エントランスでは、ペルーを拠点とするエレナ・ダミアーニの地質学的な時間軸を可視化した《レリーフⅢ》が展示。またナイロビとアメリカを拠点に活動するワンゲシ・ムトゥは、うろこのある黒く膨らんだ蛇の体と繊細な彫刻が施された青い陶製の頭を枕に載せた《眠れるヘビ》、女性(ムトゥ自身)が頭上に大きな籠を載せ、丘を登ろうともがく姿が映し出す3チャンネルのパノラマ・アニメーション作品《すべてを運んだ果てに》を展示。ともに黒人女性を取り巻く厳しい状況を訴えかける。


グアテマラのマリリン・ボロル・ボールは、マヤ・カクチケル族にルーツをもつアーティスト。《水はコンクリートになったー「山が奪われセメントがもたらされた」シリーズより》は、先住民が日常生活で使用する陶器の中にコンクリートが詰められている。機能を失った器は、地域の支配階級が先住民のコミュニティにもたらした傷を暗に示すものだ。

陶の造形とパフォーマンスを融合させることで知られる西條茜は、瀬戸でのリサーチを重ねて窯業における労働と身体の関係着目。新作《シーシュポスの柘榴》をつくりあげた。会期中は作品を動かすパフォーマンスで足元のカーペットに引きずられた跡を残し、環境と人の関わりを表す。

アメリカを拠点とするシモーヌ・リーは、ブラックネスを主体的に語るアーティスト。西アフリカの伝統建築に見られる素材や建築様式、茅葺き屋根を想起させるラフィアの巨大なタワー《無題(ジューン・ジョーダンにちなんで)》は、詩人、教師、活動家でもあるジューン・ジョーダンへのオマージュ。
また大型のブロンズ彫刻《壺》は、19世紀にアメリカ南部サウスカロライナ州エッジフィールド地区で、奴隷や奴隷から解放されたアフリカ系アメリカ人職人によって制作された顔付きの水差しに着想を得たもの。いっぽう《無題》では、奴隷貿易の通貨であるタカラガイがその表面を覆う。


ネイティブ・アメリカンであるチャヌーパ・ハンスカ・ルガーは、《いまを生きる(家路)》によってマンダン族の祖先たちが「たたき技法」でつくってきたうつわを自身の手で再現するプロセスを見せる。

敷地内にある「デザインあいち」では、加藤泉の作品を個展形式で見ることができる。ほぼ新作で構成されており、リトグラフシリーズ「From the Sea」(2021〜22)から発展させた海や生き物をモチーフにした絵画シリーズは、魚介類の図鑑や写真などを参照しながら描かれた。また同館コレクションと組み合わせた立体にも注目だ。


なお屋外には、野生動物との関係を独自の視点からとらえたガーナとイギリスを拠点とするアーティストグループ「ハイブ・アース」による版築構造を用いた《瀬戸の版築プロジェクト「凸と凹」》も展開されている。


前回の「あいち2022」では総勢100組が参加し、エリアも広大だった。いっぽう今回は参加作家数も会場数も比較的コンパクトにまとめられており、より周遊しやすい設計だ。フール・アル・カシミが設定した「灰と薔薇のあいまに」というテーマを、コンセプトあるいは素材で体現する作品の数々を堪能してみてはいかがだろうか。
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