「諏訪敦|きみはうつくしい」(WHAT MUSEUM)開幕レポート。新作に至る過程をたどる旅路へ【3/3ページ】

 本展の中心となるのが「汀(みぎわ)にて」だ。新作である《汀にて》(2025)は、新型コロナウイルス感染拡大により、モデルを使った対面の制作ができなくなった諏訪が、家族を介護しながら自宅アトリエで進めてきた静物画研究の集大成。

展示風景より、《汀にて》(2025)

 コロナ禍以降「人間を描きたいという気持ちを失ってしまった」という諏訪。本作は、アトリエで見出した材料(古い骨格標本、プラスター、外壁充填材など)でブリコラージュした人型(ひとがた)がモチーフとなった大型絵画だ。会場では、この絵画、モチーフとなった人型、そして制作途中を記録した素描もあわせてインスタレーションのように展示された。静物でも人物でもない、文字通りの「汀」にあるものであり、これまでの諏訪にとっても挑戦的ものとなった。

 代表的な諏訪の作品から故人の肖像画、家族、そして静物をたどるこの展覧会全体が、《汀にて》の制作背景をめぐるヒントになっているとも言える構造だ。

展示風景より、中央は《汀にて(Bricolage)》(2025)

 なお本展では、芥川賞作家の藤野可織が、静物画の制作に没頭する諏訪のアトリエを度々訪問し、その絵の印象をもとに掌編小説を書き下ろし。小説はハンドアウトに印刷して本展の来場者に配布される。こちらも会場とともにじっくり目を通してほしい。

編集部