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いま改めて問う、美術は戦争をどう描いてきたか──「コレクションを中心とした特集 記録をひらく 記憶をつむぐ」(東京国立近代美術館)
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 展示は「6章 身体の記憶」から、戦後の美術を扱うこととなる。過去のものとなった戦争から何が記憶され、何が忘却されていくのか。現在にまで続く「戦争の記憶をどう継承するか」という問いは、戦後間もない時期から立ち上がっていたのである。

 1950年代には、戦争の痛ましい記憶を定着しようと試みる作家が続々登場し、戦時中には表現できなかった傷つき変形した身体イメージを描いた。一室内に、岡上淑子による優美なコラージュ作品から、火中の人物群を描いた丸木位里・俊《原爆の図 第2部 火 再制作版》(1950-51)(前期のみ展示)までが同居するさまから、抑えられていた多様な表現が噴出した時代の雰囲気が伝わる。

 「7章 よみがえる過去との対話」には、1965年以降激化するベトナム戦争に絡んだ作品が並ぶ。戦争の記憶の風化が懸念されていた時期において、東南アジアを舞台とした戦争は、過去の記憶を呼び起こす契機となったのである。

 戦中から戦後にかけて、人間を抑圧する暴力的な状況を批評する作品を描き続けた井上長三郎は、米軍による北爆のニュースに衝撃を受けて、《ヴェトナム》(1965)を描いた。褐色に塗り込められた画面に、細々とした白線で犠牲者の輪郭を立ち上げ、一人ひとりの「死」を見据えている。

井上⾧三郎 ヴェトナム 1965 東京国立近代美術館

編集部