本展最大の見どころは、野十郎を象徴する「蝋燭」や静物画、各地の風景画など、初期から晩年までの傑作が一堂に会する点にある。蝋燭の灯りが闇を照らすシリーズは、極限まで写実を突き詰めた技巧と、画家自身の内なる祈りのような精神性が画面に満ちている。千葉・柏に移住してからの作品群は、雑木林や田園風景、身近な静物など、質素なモチーフの中に静かな光と空気感が表現され、彼が「パラダイス」と呼んだ晩年の境地がしみじみと伝わる。
また、関連資料や記録写真も豊富に展示されており、野十郎が旅した地図や、手書きのメモ、当時の柏の風景写真などからは、作品と人生の背景を立体的に感じ取ることができる。併設で写実派洋画家・椿貞雄のコレクション展も開催され、同時代のリアリズム表現との比較鑑賞も興味深い。
総じて本展は、画壇や時流から離れて「見ること」「描くこと」を一心に探究し続けた野十郎の姿勢に、現代の私たちが学ぶべきものが多いことを示唆している。名声や外的評価とは無縁の誠実な生き方と、自然や日常にひそむ美を静かに掬い取った作品群。その一点一点と向き合うことで、鑑賞者は静かな感動とともに、野十郎が見つめ続けた世界を追体験できるだろう。千葉ゆかりの地で開催される本展は、没後50年という節目にふさわしく、野十郎芸術の本質に迫るかけがえのない機会である。




















