最大規模の回顧展。「没後50年 髙島野十郎展」に見るその核心【3/5ページ】

  第3章「風とともに」では、旅を愛した野十郎が日本各地やヨーロッパを巡り、見つめ続けた風景画が集められている。彼は気ままに旅に出ては長く滞在し、その土地の空気や光、季節のうつろいを丹念に観察して、静かな詩情とともに画布へと定着させていった。即興的な写生ではなく、じっくりと構図や対象を選び抜き、細部まで描き尽くす。その作品には、たんなる風景の記録を超えた精神性、野十郎が世界を受け入れ、再構成した独自の宇宙観が表現されている。

展示風景より、《田園太陽》(1956、個人蔵)

 第4章「仏の心とともに」では、仏教的な精神性や宗教的な主題に焦点があたる。野十郎は兄の影響もあり、若いころから仏教思想、とくに真言密教に関心を抱き、四国や秩父の札所巡りも重ねていた。野十郎にとって絵を描くことは、慈悲の実践そのものであり、対象を均等に、精緻に描くことが自らの生き方とも重なった。寺社や地蔵といった直接的な宗教モチーフだけでなく、蝋燭や太陽、月など光と闇をめぐる絵画世界に、無常観や生命観といった仏教的な理念が色濃く表現されている。

編集部