第1章「時代とともに」では、同時代の画家たちとの関わりや、日本近代美術のなかでの位置づけに焦点をあてる。野十郎は美術団体やサロンからは距離を置いていたが、岸田劉生や草土社の細密な写実主義には強い影響を受けていた。青年期の野十郎がゴッホに強い共感を寄せていたことや、青木繁、坂本繁二郎、古賀春江ら同郷の画家たちとの出会いが、独自の表現の方向性をかたちづくっていったことも資料から明らかとなる。彼は「世の画壇と全く無縁になることが小生の研究と精進です」と書簡に記すいっぽう、決して時代の流れと断絶していたわけではない。明治から昭和にかけての近代洋画の文脈に、独自の精神性と技巧をもって対峙した存在である。

第2章「人とともに」では、「孤高の画家」というイメージを再考させる展示となっている。たしかに野十郎は団体に属さず、独身で暮らし、他の画家との交流も限られていた。しかしいっぽうで、彼の誠実な人柄と画業に惹かれた支援者や友人、コレクターたちが存在し、親子三代にわたって作品を守る人々もいた。展示では、野十郎に寄せられた手紙や、交流の記録をたどることで、芸術と生活が密接に結びつき、多くの人の共感を得てきた側面が明らかにされている。孤高でありながら決して孤独ではなかった野十郎の実像が、作品と証言によって浮かび上がる。




















