「野口哲哉 鎧を着て見る夢 –ARMOURED DREAMER–」(箱根彫刻の森美術館)開幕レポート。鎧のなかにある身体が問いかける人間の在り処【4/4ページ】

 2階の展示室では、台状の什器のうえに大小様々な作品が並ぶ。一見すると鎧の精密さに目を奪われるが、それ以上に作品における「たたずまい」を重視しているという野口。大きさもポーズも異なる作品群はそれぞれの仕草や小物も個性的だが、同時に手足の重心の置き方や、骨格の違いなど、鎧の中にある生身の身体も強く意識させる。

展示風景より

 過去の画家たちの表現を作品に取り入れることも、野口の特徴のひとつといえる。夜の駅で降りた人々たちの顔を照らすスマートフォンの灯りからインスピレーションを得たという作品《-21 century light series-》(2024)は、17世紀オランダの絵画を代表するレンブラント・ファン・レインの作品を思わせる陰影が目を引く。光という絵画史において通底するテーマを、スマートフォンという現代の光を通して表現することで、歴史への想像力を喚起する。

展示風景より、《-21 century light series-》(2024)

 野口は油彩を学んだ画家だが、作品制作にはおもにアクリル絵具を用いており、画材ではなく技法をチューニングすることで、様々な画材を想起させるマチエールをつくり出している。本展示室ではギリシア陶器、金箔地の屏風絵、さらにはストリート・アートや手描きアニメーションのセル画風の作品などが展示されており、人間が絵を描いてきた歴史をなぞるかのようなバリエーション豊かな平面作品群を見ることができる。

展示風景より、《武人浮遊図屏風》(2008)
展示風景より、《Mask the big》(2021)

 鎧という題材は変えることなく、しかし着実に手数を増やし作品のバリエーションを増やしている野口の現在地を見ることができる展覧会だ。鎧の内部にある身体とは何か、絵画のなかにあるモチーフとは何か。誰もが目を止めるポップさを持った作品の裏側で多面的な問いを投げかける、野口らしい個展といえるだろう。