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「三島由紀夫生誕100年=昭和100年 『豊饒の海』 永劫回帰に横たわる虚無展」(GYRE GALLERY)開幕レポート。三島由紀夫と「虚無」の時代を見つめて【4/4ページ】

展示風景より、右は友沢こたお《Slime CCXVI》(2025)
展示風景より、友沢こたお《Slime CCXVI》(2025)

 友沢こたおは、三島のデビュー作『仮面の告白』を主題に新作絵画を発表した。自身の身体を媒体とし、スライムや呼吸困難といった身体的感覚を通して「生きている」ことを描く友沢の表現は、三島が生涯格闘した肉体と魂の乖離に深く共鳴している。なかでも、三島が描いた思春期の海辺での葛藤──筋肉質な男性の身体に対する強い憧れと反応──は、友沢にとって「臓器に響くような」読書体験であったという。その記憶に向き合いながら制作された絵画は、文学と身体の交差点として強い印象を残す。

 本展は、三島由紀夫の小説世界『豊饒の海』を軸に、意味や一義性から解き放たれた芸術表現を通して、戦後日本の精神的風景を再構築する試みである。文学と美術、国内と国外、思想と身体──多様な視点が交錯しながら、中心なき美のあり方を問い直す場となっている。

展示風景より、アニッシュ・カプーア《無題》(2000)

 飯田高誉は、「三島の死は1970年の大阪万博の年、日本が高度経済成長の絶頂にあった時期に起こった。当時の日本社会が、かつて大切にしていた価値を喪失しつつあるという危機感が、三島の目には映っていた」と述べたうえで、次のように語った。

 「死の3ヶ月前には、日本社会が抱える“虚無”に言及しており、それはいまの私たちにとっても決して過去のものではない。むしろ、三島の言葉はいまなお現代性を失っておらず、鋭く私たちに迫ってくる。本展は三島の全体像を網羅するものではないが、若い世代が三島由紀夫という存在に出会い、その活動の一端でも理解する契機となることを願っている」。

*──1970年(昭和45年)7月7日付の産経新聞夕刊に掲載された三島由紀夫のエッセイ。

編集部