中国の現代アーティストの特徴について、和多利は「中国では国家の制度が家族のあり方にまで深く入り込んでおり、また作家たちは自らの考えを素直に言葉にするのが難しい場面も多い。だからこそ、自身の思いやメッセージを作品に込める技術が非常に発達している」と指摘する。とりわけチェンの作品には、メタファーやユーモアが巧みに織り交ぜられており、一見ポップで華やかな印象を与えながら、その背後には社会構造への鋭い批評的視点が潜んでいる。
例えば、可愛らしい変顔のポートレイトや、一見洗練されたデザインとして構成された画面のなかに、排泄物や死んだ小鳥、ムカデなどの毒虫といったグロテスクなモチーフが密かに描き込まれている。こうした表現に込められた違和感や複雑な感情は、コロナ禍に娘を授かり、その成長を見守ってきたチェン自身の生活実感に根ざしており、観る者の記憶や体験とも自然に響き合っていく。


展覧会の最後には、舞台演劇の一場面のように構成された作品《父の胸の内》(2025)が展示されている。そこでは、バーで酔いつぶれた父親を、幼い娘が“舞台”の外側からのぞき込んでいる。まるでウサギの穴に落ちたアリスのように、大人の世界に対する子供の戸惑いや不安が象徴的に表現されている。「『父と子』というテーマは私的でありながら、同時に開かれている。私が絵画を好きな理由のひとつは、観る人それぞれが同じ作品から異なる解釈を引き出せることです」とチェンは語る。

いっぽうで、和多利は日本の鑑賞者に対し、本展を通じて「いまを感じてほしい」と語る。「チェン・フェイは、まさに“いま”の中国、そして“いま”の世界に生きるアーティストです。だからこそ、彼の作品は決して遠い世界の物語ではなく、日本の観客にとっても“いまの自分”と重ね合わせられるはずです」。
日本の観客に向けたメッセージとして、チェンはこう述べている。「“力”というものは、つねに民間にあると私は思っています。芸術は、その民間の力をつなぐ“橋”であり、人々の共感のなかにこそ意味がある。そして芸術こそが、その共感を育むもっとも有効な手段だと信じています」。
「父と子」という古くて新しいテーマを通じて、家族の物語から国家、社会、そして個人のあり方にまで静かに問いを投げかけるこの展覧会。チェン・フェイの絵画は、観る者の心のどこかにある「いま」や「力」と結びつき、様々な思索の扉を開いてくれるだろう。




















