第一弾に杉本博司。ワタリウム美術館「Oriza」プロジェクトが示すこれからの文化支援のありかた

開館35周年を迎えた東京・神宮前のワタリウム美術館が、文化施設の継承と支援を目的とした新プロジェクト「Oriza(オライザ)」を始動した。第一弾には杉本博司が参加し、自ら撮影した美術館の建築をマルチプル作品として発表。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

左から和多利恵津子(ワタリウム美術館 館長)、袴田浩友(Oriza発起人)、杉本博司、和多利浩一 (ワタリウム美術館 CEO)

 今年で開館35周年を迎える東京・神宮前のワタリウム美術館が、新たな取り組みとして「Oriza(オライザ)」プロジェクトを立ち上げた。第一弾として発表されたのは、現代美術家・杉本博司による新作マルチプル作品《WATARIUM ART MUSEUM 2025》。建築家マリオ・ボッタが設計したワタリウム美術館の外観をとらえた本作は、限定25点で制作され、5月26日から申込受付が開始される。

民間発の文化的遺産支援の新たなかたち

 「Oriza」は、現代アーティストの作品をエディション付きで制作し、その収益を文化的遺産の修復や運営支援に活用することを目的としたプロジェクトである。ワタリウム美術館が長年抱えてきた財政的困難をきっかけに、有志が集まり、約3年にわたる構想と検討を経て実現に至った。

 「このままでは美術館の運営が立ち行かないのではないかと、ここ数年ずっと悩み続けていました」と語るのは、同館館長の和多利恵津子。「私たちはこれまで、東京の街を使った展覧会や、地方での芸術祭など、自由な表現活動を大切にしてきました。しかし、日本の制度のなかでは、そうした活動への公的支援が得にくく、予算的にはつねに厳しい状況でした」と、その背景を明かす。

杉本博司と和多利恵津子

 いっぽう、同館CEOの和多利浩一は「ほかの美術館のように年度ごとの予算があるわけではなく、ワタリウムではつねにゼロから展覧会をつくり上げなければならない。限りなく儲からない株式会社というかたちでなんとか35年やってきたが、そろそろ運営のあり方そのものを見直さなければならない時期に来ている」と語る。

和多利浩一と袴田浩友

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