会場は大きく分けて、ふたつのテーマに基づいて構成されている。前半は器の形態の作品で、後半は実用性を持たないオブジェ的造形作品だ。本展の担当学芸員・島崎慶子(菊池寛実記念智美術館・学芸課長)は開幕にあたり、次のように述べている。「陶芸というと器を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、そのジャンルのなかで器ではない形態をつくった作家たちがどのような思いを込めていたのかをご覧いただき、その作品が交錯する空間で何が見えてくるのかを感じていただければと思います」。
前半の「器の形態に表される個人の制作」では、現代陶芸における器形態がどのように個人の表現として昇華されるかを探る。皿や鉢、花器、茶碗といった伝統的な器のかたちが、作家個々の視点を反映した作品として紹介されており、また日常的な器の形状が、たんなる機能を超えて芸術的な表現へと変容する過程を示している。
例えば、本展の展示作品においてもっとも古い作品である富本憲吉の《白磁八角共蓋飾壺》(1932)は、白磁の壺に八角形の輪郭が描かれた外観が特徴的だ。空間のなかに立体を立ち上げ、壺を抽象的な造形としてとらえるという視点が、明治時代生まれの作家の中にすでに存在していたことがわかる作品である。
加守田章二は、「器のかたちではあるが、器ではない」という独特の表現を生み出し、器の形態に新たな解釈を加え、器としての機能性と芸術性を融合させる試みを行った。その作品《彩色鉢》(1975)は、形態、文様、色彩、質感を組み合わせることで、プリミティブな力強さと現代的な洗練を兼ね備えた造形を有している。
河本五郎の作品は、量産するための型を使った制作が特徴的だ。河本はその技法を異なる視点でとらえ、その作品は、新しい時代に求められる焼き物とは何かを考えるひとつの成果と言える。