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「坂本龍一|音を視る 時を聴く」(東京都現代美術館)開幕レポート。大型インスタレーション一堂に【3/3ページ】

Zakkubalan、アピチャッポン・ウィーラセタクン、真鍋大度とのコラボレーション

 坂本はアルバム『async』をきっかけに、同アルバムを「立体的に聴かせる」ことを意図し、Zakkubalan、アピチャッポン・ウィーラセタクンらともインスタレーションを制作してきた。

 Zakkubalanとのコラボレーション作品《async–volume》(2017) は、『async』制作のために坂本が多くの時間を過ごしたニューヨークのスタジオやリビング、庭などの断片的な映像が、それぞれの場所の環境音とアルバム楽曲の音素材をミックスしたサウンドとともに1つのインスタレーションとして構成された作品だ。24台のiPhoneとiPadが壁に配され、鑑賞者は世界に開かれた多くの「小さな光る窓」を通して、坂本の内面を覗き込むことができる。

展示風景より、坂本龍一+Zakkubalan《async–volume》(2017)

 アピチャッポン・ウィーラセタクンとのコラボレーションである《async–first light》(2017)は「デジタルハリネズミ」と呼ばれる小型カメラを親しい人たちに渡して撮影してもらった映像で構成されたもの。坂本はこの作品のために「Disintegration」「 Life, Life」の2曲をアレンジした。解像度が低く粗い画面に独特の温かみのある色味で、それぞれの私的な日常が切り取られている。 

展示風景より、坂本龍一+アピチャッポン・ウィーラセタクン《async–first light》(2017)

 真鍋大度とのコラボレーション作品として外せないのが2014年の札幌国際芸術祭で初めて発表された《センシング・ストリームズ》だ。本作は、携帯電話やWiFi、ラジオなどで使用されている電磁波という人間が知覚できない「流れ(ストリーム)」を一種の生態系ととらえ、可聴化・可視化させた作品。本展のために新バージョン《センシング・ストリームズ 2024–不可視、不可聴 (MOT version)》(2024)としてアップデートされており、屋外に設置された16メートルの帯状のLEDディスプレイに、東京という大都市の目に見えないインフラの姿が映像と音で繊細に描き出される。

展示風景より、坂本龍一+真鍋大度《センシング・ストリームズ 2024–不可視、不可聴 (MOT version)》(2024)

 なお、「アルヴァ・ノト」名義で2002年以降坂本ともアルバムを手がけてきたカールステン・ニコライは、ジュール・ヴェルヌの『海底二万里』から着想した初の長篇映画『20000』のために書いた脚本全24章から、2つを映像化して初展示している。

中谷芙二子とのスペシャル・コラボレーションも

 1970年に大阪万博のペプシ館を水を使った人工の霧で覆った「霧の彫刻」で知られ、世界各地で霧のプロジェクトを実施している中谷芙二子。その中谷とのスペシャル・コラボレーションも本展のハイライトだ。坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎《LIFE–WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662(2024) は、東京都現代美術館屋外のサンクンガーデンを使って展示されるもの。霧と光と音が一体となり、唯一無二の世界を構成し、文字通り鑑賞者を包み込む。

展示風景より、坂本龍一+中谷芙二子+高谷史郎《LIFE–WELL TOKYO》霧の彫刻 #47662(2024)

 特別展示としては、坂本龍一と岩井俊雄による音楽と映像のコラボレーション《Music Plays Image × Images Play Music》(1996-97/2024)も見逃せない。

 本作は1996年に水戸芸術館で初演されたもので、坂本が奏でるMIDIピアノの音が岩井のプログラムによって瞬時に映像化され、スクリーンに投影され、音が可視化された。本展では、岩井のアーカイヴから発掘された97年のアルスエレクトロニカで演奏されたデータをもとに、坂本の演奏がインスタレーションとして会場に再現。あたかも坂本がそこにいるかのような感覚を抱く本作は、会場を締めくくるのにこれ以上ないほど相応しいものとなっている。

展示風景より、坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Image × Images Play Music》(1996-97/2024)

 様々なアーティストたちとの協働によって生み出されたインスタレーションを体験すると、いかに坂本が先駆的であり、実験的な創作活動に注力していたのかがあらためて認識できる。「音を視る、時を聴く」というタイトルのとおり、本展に並ぶインスタレーションの数々やは鑑賞者がその目と耳を開き、坂本が追求し続けた「音を空間に設置する」という芸術的な挑戦に対峙する体験をもたらすだろう。

編集部

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