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「坂本龍一|音を視る 時を聴く」(東京都現代美術館)開幕レポート。大型インスタレーション一堂に【2/3ページ】

坂本龍一+高谷史郎のコラボレーション

 まず注目すべきは、本展の中核をなすとも言える坂本と高谷史郎によるコラボレーション作品だろう。坂本と高谷は1999年の『LIFE a ryuichi sakamoto opera 1999』以来、長きに渡りともに仕事をしてきた盟友だ。

 坂本と高谷のインスタレーションにとって重要な要素である水や霧。これを使った作品の代表格として《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》(2007)がある。本作は、上述の『LIFE』をベースとするサウンドに包まれた空間を舞台に、9つの水が張られたアクリルボックスが中空に浮かべたもの。水槽は明滅を繰り返し、地面に様々な景色を映し出す。そこをゆっくりと歩むことで、独自の時空間の拡がりと流れを体感できる。

展示風景より、坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》(2007)
展示風景より、坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》(2007)
展示風景より、坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》(2007)

 《water state 1》(2013)も水を使ったインスタレーション。一見すると鏡だと思われるような黒い水面に水滴が落ち、波紋を起こす。水滴は地球上の降水データをもとにしており、落ちる雨とともに音も変化を見せる。

展示風景より、坂本龍一+高谷史郎 《water state 1》(2013)

 《IS YOUR TIME》(2017/2024)は、坂本が2011年の東日本大震災の津波で被災した宮城県農業高等学校のピアノに出会ったことをきっかけに生まれた作品。被災したピアノを「自然によって調律されたピアノ」ととらえ、大自然の営みによって「ひとつのモノ」に還ったピアノを、世界各地の地震データを使い、地球を鳴動する装置として生まれ変わらせた。

展示風景より、坂本龍一 with 高谷史郎《IS YOUR TIME》(2017/2024)

 最新作も発表された。《async–immersion tokyo》(2024) は、坂本が2017年に発表した名盤『async』(「async」とは「非同期」を意味する)を高谷とともに深化させたもの。「AMBIENT KYOTO 2023」で《async–immersion 2023》として発表され大きな話題を集めた作品が、東京都現代美術館の展示空間にあわせて再構成された。

 本作では、『async』の収録楽曲とともに、巨大スクリーンに様々な自然の様子や坂本のスタジオなどが映像として流れる。無数の細い横線からなる映像はつねに変化を続けるが、音楽と映像はシンクロしていないため、鑑賞のタイミングによって同じ映像を見ていても聞こえる音楽は異なる。音と映像で紡がれ続ける世界は、心地よく私たちの感覚を惹きつける。

展示風景より、坂本龍一+高谷史郎《async–immersion tokyo》(2024)

 またこちらも新作となる《TIME TIME》(2024)は、2021年に初演された舞台作品《TIME》をもとに本展のために制作された作品。『async』で見られた非同期性をさらに発展させ、時間とは何かを「夢幻能」のフォーマットで表現したもので、ここでも水が舞台として大きな役割を果たす。撮り下ろしによる宮田まゆみの笙の音色と田中泯の映像が組み合わされ、幻想的な世界が展開される。

展示風景より、坂本龍一+高谷史郎《TIME TIME》(2024)

編集部

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