栗林は本展タイトルの「Roots」に、「根」だけではなく、自身がこれまでアーティストとしてたどってきた「道のり=ルーツ」を振り返るという意味も込めたという。根のように深く拡がってきた栗林のアーティストとしての道程は、様々な思索の契機を鑑賞者にも与えてくれる。
講堂ではフレコンバックや鏡と複数の映像作品を組み合わせた《el-Mabka : Roots 2024》(2024)を展開。栗林が志津野雷とともに原発事故後の福島の避難区域などで取材した映像化が、疑問を持ったものを探求し続ける栗林の飽くなき姿勢を伝えている。
展示ロビーはスタジオスペースとして、制作空間として栗林が活用する空間だ。福島の土と和紙で制作した作品《Sunflower》(2017)や、過去の「Tanker Project」によって生まれた作品を配置したこの場所で、栗林は新たな制作に取り組む。これもまた、栗林が自らのルーツをたどるための試みのひとつといえるだろう。
改修中の美術館で何ができるのか。アーティストが船の乗員のように環境と対峙し、新たな興味を創出していく、その航路に触れることができる展覧会だ。