青木は、本展で鉄を溶断する際に現れる「透明な光」にインスパイアされた作品を展示。重厚でありながら有機的なフォルムを持つ作品群は、旧朝香宮邸の装飾と対話しながら空間を豊かにしている。また、通常は作品のパーツにおいて透明なガラスを用いる青木だが、今回は個人的な歴史や記憶を反映させた赤いガラスも使用されており、「昭和の歴史を宿す旧朝香宮邸に向き合うことで、自身の家族や過去を見つめ直した」という。
いっぽうの三嶋は、旧朝香宮邸のアール・デコ様式に着目した作品を発表。例えば、本館大広間で展示されている《光の海》(2024)は、天井に設置された40個のライトに呼応するかたちで並べられた40点の透明なガラスの作品で、光の揺らぎや厚みを繊細に表現し、空間全体に広がるエネルギーを生み出している。三嶋は「作品が互いに対話しながらも適度な間を保つ配置を意識した」と語り、空間との共鳴を大切にしている様子がうかがえる。
本展の展示空間は、時間や季節ごとにその表情を変える。昼間は自然光が差し込み、夕暮れには室内照明が灯ることで、青木の鉄の彫刻が陰影を生み出し、三嶋のガラス作品が光を透過して輝きを放つ。その様子は、ふたりの作品が空間と対話しながら共存していることを物語っている。
また、本展では展示作品だけでなく、ふたりの作家へのインタビュー映像や制作過程を示す資料もあわせて紹介されている。これらを通じて、青木と三嶋が現在どのような視点で世界を見つめ、何を感じながら創作に向き合っているのかを垣間見ることができる。
異なる素材を扱いながらも、「光」を共通テーマとして作品を通じて新たな視点を提示する青木と三嶋。素材や表現、空間への向き合い方の異なるふたりの作家が、旧朝香宮邸という特別な舞台で共演する一期一会の機会をぜひお見逃しなく。
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