青木野枝が市原湖畔美術館で立ち上げた「光の柱」
鉄を主な素材に、素材本来の硬質感や彫刻の概念から解放されたような作品を発表してきた青木野枝の個展「光の柱」が、千葉の市原湖畔美術館で開幕。高さ9メートルにおよぶ新作を含む会場の様子をレポートでお届けする。会期は2024年1月14日まで。
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市原湖畔美術館で「青木野枝 光の柱」が開幕した。鉄を素材に“溶断”と“溶接”によって、周囲の空気までも取り込んだ作品を手がける彫刻家が、地下から高さ9メートルを超える吹き抜け空間に《光の柱》を立ち上げた。
この場には、地からのぼっていくものをつくりたいと思った。
上昇する水や闇や光、そして匂いの粒子やケミカルな粒子たち。
それはまた上方から降りそそぐものでもある。
上昇と加工を繰り返す、動体の光の柱をつくりたいと思った。
──青木野枝
市原湖畔美術館の館長で、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「瀬戸内国際芸術祭」の総合ディレクターも務めるアートフロントギャラリー代表の北川フラムはこう話す。「青木野枝さんの作品からは、人が鉄を知ったり関わったりする喜びが感じられる」。だから大好きなのだと。
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最初の展示室に展示されているのは、森美術館で開催された「六本木クロッシング2022展:往来オーライ!」に出品された《core-1》《core-3》。鉄を用いてリング状のパーツを作成し、ガラスをはめ込みながら球体に組み上げた立体作品だ。「鎮座する」というよりも「佇む」という語が適切だと思われるくらいに、鉄という素材が備えるはずの重量感から解放されている。
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最初の展示室の奥に、地下から吹き抜け空間に立ち上がる新作《光の柱 I》が見えてくる。個展の開催が決まってから3度、この美術館を下見し、試行錯誤の末に作品のアイデアが生まれた。ドローイングを手がけたことから発想が広がったという。
「最初は空間の床に並べる立体作品をイメージしたのですが、それだとこの空間を活かせないと思い、空間にそびえる光の柱を考えました」と、あくまでも空間ありきの制作だったと青木は語る。真夏の40℃近いアトリエで2000個以上のリング状のパーツを火で溶断し、決死の思いで水分と塩分を補給しながら制作を続けた。作品が空間でどう見えるかを想定することなく、会場に搬入してから天井いっぱいまで天地をつなぐように組み上げ、どの部分にガラスをはめ込むかを現場で決めながら即興的に作業が進められた。
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外光が入ってくる展示室には、またそこに相応しい作品が手がけられた。天井高4.7メートルの展示室にそびえる《光の柱 III》は、湖面に水柱が立ち上ったかのような印象を醸しながら光と呼応する。
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そして《光の柱 II》は、いわゆるホワイトキューブに見合う作品がどのようなものなのかを考えて制作された。天井と床をつなぐほかの2作品とは異なり、自立し、ガラスをはめ込んだパーツが光を受けながら風に揺らぐモビールの要素ももつ。
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鉄を扱いやすい素材だと語る青木は、溶断や溶接のために火を用いて作業する際のその美しさ、さらには、鉄を使い始めるようになった動機を次のように説明する。
「鉄を温めていくと、段々と夕陽みたいなオレンジ色になっていきます。それをさらに熱し続けると、今度は火花を散らしながら、真昼の太陽のように真っ白な光の塊になるんです。溶け落ちてしまう前に火を止めて、冷めていく様子を見ていると、中に光があって、半透明の膜で覆われたような状態になります。それがすごく綺麗で強く印象に残りました。その印象から、鉄を立体に組み合わせて、そこに風が通り抜けるような空間をつくりたいと思ったのが、素材として鉄を扱うようになったきっかけでした」。
高滝湖の煌めく湖面と響き合う光の柱が、市原湖面美術館の特徴的な展示空間に溶け込んで来場者を迎える。立体物が空間と一体化して作品となるばかりでなく、外から入館する際に感じる光の変化や風景の移ろいまでも組み込まれたような展示と出会うために、市原湖畔美術館まで足を運んでほしい。ここでしか得られない作品体験が待っているはずだ。
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