旧民家を使った施設での展示
健康学習センター付近には旧民家を利用した施設が点在しており、そこにも作品が展示されている。
「香りの館」の2階では、コミュニケーションの危うさに関心を持つ中﨑透が、下呂の久津八幡宮にある彫刻《水呼ぶ鯉》《鳴いたウグイス》と、それらにまつわる二つの伝説をモチーフにしたインスタレーションを制作。芸術作品が現実に作用するという興味深い逸話を、ライトボックスやその場にあった日用品などを使って表した。空間を大胆に区切るオブジェをくぐったり見上げたりしながら、現実と虚構、過去と現在などの境界を行き来するような楽しい作品だ。
「いろいろ体験ハウス」の2階では、自然と向き合い身近な素材を制作に用いる鈴木初音の作品に圧倒される。この地域の風景を形作る雄大な山々や下呂温泉は火山から生まれたものだが、鈴木はその火山が姿を変えた川砂を使って漆喰の壁をつくり、壁画を制作。随所に使用されているのは、会場の傍らの畑でかつて栽培されいまも繁茂している菊芋を原料に、種を漉きこんだ和紙だ。会期終了後は作品の一部を土に還し、自然の循環を現前させる。
東北の中山間地域に住みながら採集の歴史と技術を研究してきた田中望は、「交流サロン」で薬草店を模したインスタレーションを制作した。会場付近の旧薬草園でかつて400種類の薬草が植えられたが多くが根付かなかったということから、植物の瓶づめをはじめ、会場である民家の元住民へのインタビューをもとにした「人間の根っこの瓶づめ」、ドローイングやアニメーション映像を陳列。植物や人が根付くこと、人間にとっての根とは何かを考えさせる。