「Everyday Enchantment 日常の再魔術化」(シャネル・ネクサス・ホール)開幕レポート。興味をかき立てる造形が提示する日常のなかの気づき【4/4ページ】

 丹羽海子は1991年愛知県生まれの作家で、身体のジェンダーを超えていく主体のあり方を、彫刻を通じて探り続けている。本展ではアメリカのリユースショップでよく扱われている、金属製のフィギュアを素材としたインスタレーションを作成。これらのフィギュアは、男性であれば男性らしいとされてきた野球などのスポーツをし、女性であれば女性らしいとされてきた花を摘んでいたりする。

展示風景より、丹羽海子《ダフネのクローゼット》(2024)

 丹羽は、こうしたフィギュアに現れたジェンダーロールに注目し、これらを溶かして混ぜることで、新たな壊れやすく繊細なフィギュアを制作して展示。さらにフィギュアとともに花を飾ることで、会期中に花が朽ちながら変化していくという時間の経過も作品に織り込んだ。

展示風景より、丹羽海子《ダフネのクローゼット》(2024)

 丹羽の作品は会場のいたるところで顔をのぞかせるが、いずれも非常に繊細でもろい。このもろさは、人とのあいだに強固な関係を築きにくく、つねに移ろいやすかったという、丹羽のトランスジェンダーとしての経験も投影されているという。

展示風景より、丹羽海子《ダフネのクローゼット》(2024)

 3作家の作品はいずれも強固なコンセプトに支えられながら、観賞者が自らの身体をつかって様々な確度で仔細に観察し、眺めたいと思わせる視覚的な強度も持っている。ロジックの前に感性に訴えかける構造、そこにキュレーターたちによる「魔術」が感じられる展覧会となっていた。

展示風景より、丹羽海子《ダフネのクローゼット》(2024)

編集部

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