誰もが「デザイン」にアクセスできる場所をつくる
ハビタの成功から様々な事業を展開させてきたコンランは、1980年には建築家フレッド・ローチと建築設計会社を設立。建築とデザインを融合させ、ロンドンの街並みを大きく変えることにも挑戦した。各章にはその領域の周縁人物のインタビュー映像が流されているが、ここでは昨年六本木ヒルズ森タワーで大規模な個展を開催した建築家トーマス・ヘザウィックによるコメントも見受けられた。
日本には現在6店舗の「ザ・コンランショップ」が存在するが、1号店(1994、西新宿)が日本に初上陸したのは約30年前のことだとコンランショップ・ジャパン代表取締役社長・中原慎一郎は語る。7章「日本におけるプロジェクト」では、日本に進出したコンランショップがどのように受容されてきたかといった変遷についても各人のコメントや当時の情報誌から紹介されている。
コンランは代表的な著書『The House Book』(1974)といった住宅に関するアイデア本のほか約80冊以上に生涯携わったほか、ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)の一角ではデザインの小展示を企画、そしてロンドンには産業デザインをメインとした世界初の「デザイン・ミュージアム」(1989、2016にケンジントンへ移転)を開館させた。
デザインに始まり、様々な領域を横断しながらより豊かな人々の暮らしを生み出してきたコンラン。だからこそ、冒頭で現デザイン・ミュージアム館長のマーロウが述べたように「(デザインは)エリート趣味ではなく、様々な視点に立って課題に向きあう姿勢」であるということを誰よりも理解し、書籍から企画展、ミュージアムに至るまで「誰もが『デザイン』にアクセスできる場所」の必要性を強く感じていたのではないだろうか。
デザインという言葉が幅広い意味を持つようになった今日において、コンランが生涯をかけて実践してきたことはむしろ自然な流れであると言える。デザイナーであるかどうかに関わらず、身の回りにある課題についてどのような目でとらえることができるのか。本展はコンランの功績からそのような柔軟な視点を学ぶことができるものでもあるだろう。
なお、同ギャラリーにほど近い新丸の内ビルにはザ・コンランショップ 丸の内店もあるため、こちらにも鑑賞後に足を運んでみることをおすすめしたい。