1月21日、東京・六本木の国立新美術館で「DESIGN MUSEUM JAPANフォーラム2023」のVol.2「デザインミュージアム宣言〜デザインミュージアムをデザインする〜」が開催された。登壇者は田中正之(国立西洋美術館館長)、内藤廣(建築家)、深井晃子(キュレーター / 服飾研究家)、田根剛(建築家、オンライン参加)、横山いくこ(香港M+リードキュレーター、オンライン参加)、河瀬大作(Daysプロデューサー / 一般社団法人Design-DESIGN MUSEUM理事)、倉森京子(NHKエデュケーショナルプロデューサー / 一般社団法人Design-DESIGN MUSEUM理事)、齋藤精一(パノラマティクス主宰 / 一般社団法人Design-DESIGN MUSEUM理事)。
デザインミュージアムの意義
ミュージアムの意義のひとつに、先人による優れた遺産を保存・継承し次代に伝えていくといったものがある。例えばイギリスのヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)や、ドイツのヴィトラ デザイン ミュージアム(ヴィトラ本社はスイス)、ニューヨーク近代美術館というように世界には国立や民間による様々なかたちのデザインミュージアムが存在している。
このような施設の設立については日本においても長く議題に上がっており、ここ数年で加速している。もちろん、日本にも金沢の国立工芸館をはじめとする美術館や武蔵野美術大学などの教育機関、椅子研究家・織田憲嗣による旭川の織田コレクションといった、工芸・デザインコレクションを数多く有する場所は各所に存在している。その反面、個人コレクションの流出や取り壊し、各地の収蔵庫不足による廃棄などの現状もあり、それらをアーカイヴ・活用していく国立デザインミュージアムの設立が急務となっているのだ。
1月14日に開催されたこのフォーラムのVol.1には、片岡真実(キュレーター、森美術館館長)や、小池一子(クリエイティブディレクター)、竹谷隆之(造形作家)、永山祐子(建築家)、名久井直子(ブックデザイナー)らが登壇。日本における「デザインの宝物」とは何かを各人が発表するとともに、ミュージアムを設立するうえでの課題感についてもトークセッションが行われた。
そしてVol.2では、「国立デザインミュージアム」をつくることを目的に設立された「一般社団法人 Design-DESIGN MUSEUM(旧 国立デザイン美術館をつくる会)」の趣意書(2021、*1)を改めて確認。そして、デザインミュージアムの設立・理想の在り方を宣言、そしてその宣言を実現するための課題やハードルは何か、いかにして越えることができるのかについて、様々な立場の有識者らが議論する場となった。
「デザインミュージアム宣言」その内容とは?
第1部には、同社団法人理事の倉森京子、河瀬大作、齋藤精一らが登壇し、「デザインミュージアム宣言(独自案 ver.001)」としてその在り方を8つの項目から述べた。その内容について、簡潔ではあるが下記にまとめる。
① デザインミュージアムのアウトカム
日本のプロダクト、グラフィック、工芸、民藝、知恵、産業などを「デザイン」として再定義。各地の有形無形物を文化として後世に残す。
② 扱うもの/デザインミュージアムでのデザインの定義
工芸・民藝のみならず、地域の取り組みなども含まれる。デザインの定義は時代に応じてつねに議論されるものとする。その議論には、デザインカウンシルのようなアドバイザーボードを設置する。
③ 国立を実現するための体制のデザイン
独立行政法人国立美術館内にデザイン課もしくはデザイン資源活用グループの設置を目指す。文化庁(国立文化施設の主体、工芸や民藝のアーカイブ)と経産省(地域産業の活性化、デザイン資源活用)は計画初期から協業していく。
④ デザインミュージアムの拠点の考え方
中心は東京に設置するが、アーカイヴを持たないネットワーク型の形式を目指す。すでに全国にある、デザインに関わる様々な施設(民藝館/工芸館/デザインセンター/ミュージアム など)をネットワーク化することを目指し、保存修復も含むアーカイブ/コレクションは各施設で行う。その状態をデータベースでわかりやすく管理する状態を目指す。
地域に分散するアーカイヴの設置主体は自治体・民設・教育機関・企業・団体・個人など様々な形式が共創的に混在していることが望ましい。各地域にその地域とつながりのある地域デザイナーを設置し、地域の様々なデザインを掘り起こし、つなげる役割を担う。
※第1弾として、山梨県出身のプロダクトデザイナー・深澤直人、柴田文江、そして齋藤精一でリサーチを実施(*2)。
⑤ 日本の中心となるデザインミュージアムの拠点
まずは国立新美術館(東京・六本木)を拠点に活動を行う。DESIGN MUSEUM JAPANの通年活動を行う場所としたい。
⑥ 財源の考え方
文化庁や経産省主導のもと、国交省や東京都などの様々な「公的財源」に加えて、寄付金や企業版ふるさと納税制度などを活用した「民間財源」も検討。公民がともに運営する、持続可能なプラットフォームとなることを目指す。
⑦ デザインミュージアム運営の目指す体制
アーティスティックディレクター/マネージャー/レジストラー/コンサベーター/コーディネーター/キュレーター/アーキビスト/エディケーター/法務/総務/広報、など25〜30人規模のスタートを目指す。これに加え、ファイナンスチームの追加も検討されており、優先順位をつけながらアサインしていくことを検討する。
現状の課題として、デザインミュージアムやアーカイヴを実現していくうえでの人材不足が挙げられる。いままで需要がなかったため、デザイン史のプロ人材が少人数であり、今後大学などの教育機関と連携した人材育成も検討の余地がある。また、デザインアーカイヴを持つ民間企業からの出向・協業も検討し、知識の蓄積も行っていく。
⑧ メディアを活用した各地のデザインミュージアムの継続的活動
様々なメディアを通じてデザインミュージアムの必要性を訴えかけるとともに、ミュージアム活動の共有やデザインツーリズムの取り組みも積極的に行う。文化的価値・資源を有するミュージアムの活動を通じてほかの産業の発展にも寄与していく。
この宣言について、オンラインにて参加した田根剛(建築家)は、これらの取り組みの永続化とコレクション形成のために国立デザインミュージアムの必要性に触れながら、地域、国立、そして海外がシームレスにつながる「ネットワーク化」をいかに進めていくかが重要であると述べた。
同じくオンライン参加の横山いくこ(香港M+リードキュレーター)は、2021年11月に香港・西九龍文化地区に誕生したアジア最大級のヴィジュアル・カルチャー博物館「M+」が国立や私立という括りではないこと、そしてその財源は文化区に対する国の支援である(運営費は各施設の収入でサイクルさせていく)ことについても紹介した。
日本の「国立」というハードルは高い。国立デザインミュージアムの設立および既存のミュージアムが抱える課題とは
第2部には、田中正之(国立西洋美術館館長)、内藤廣(建築家)、深井晃子(キュレーター / 服飾研究家)らが登壇し、デザインのアーカイヴ、そして「国立」というハードルにいかに対応していくことができるかといった意見交換がなされた。