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「ルイーズ・ブルジョワ展」(森美術館)開幕レポート。地獄から帰還し、魂の再生を語る【4/4ページ】

 最後の第3章「青空の修復」では、章タイトルと同名の作品が最初に目に入る。糸で5つの傷口を縫い合わせて修復しようとする作品だ。5という数字は、ブルジョワの作品で繰り返して出現しており、フランスの実家と、ニューヨークで彼女自身が築いた5人家族を反映している。

第3章「青空の修復」の展示風景より、《青空の修復》(1999)

 2000年代後半、ブルジョワは赤いグアッシュの作品を多く手がけた。同章で紹介されている「家族」(2007)や「妊婦」(2009)などのシリーズは、ウェット・オン・ウェットという手法を用いたもの。紙を一度濡らしたうえでグアッシュを塗ることで、同じモチーフを描いても、偶然性が現れる。

展示風景より、「家族」(2007)シリーズ

 最後の蜘蛛の彫刻(1997)は、冒頭部の《かまえる蜘蛛》とは異なる側面を表現している。体の下のケージを包み込んで守るかのような姿勢をとっており、ケージのなかにはブルジョワの両親が経営していた工房から大切に保管されていたタペストリーや、ブルジョワが愛用していたゲランの香水が吊り下げられている。「このケージは一種の立体的な蜘蛛の巣で、彼女にとって大切なものを守るための空間をつくり出している」(矢作)。

展示風景より、彫刻作品は《蜘蛛》(1997)

 第3章の最後に展示されている彫刻《トピアリーⅣ》(1999)は、木のかたちをした右足のない松葉杖を持つ人物像で、その右肩には傷があり、そこから青い実が生まれようとしている。松葉杖のモチーフは第一次世界大戦で手足を失った負傷兵をも連想させるもので、ブルジョワのほかの作品にもたびたび登場する。ブルジョワはその姿と自分自身を重ね合わせており、傷ついても生き抜く強さを表現している。

展示風景より、《トピアリーⅣ》(1999)

 展覧会の最後では、ブルジョワの98年にわたるアーティストとしてのキャリアを、年表や貴重なアーカイヴ資料とともに紹介。テーマごとに展示されている各章の作品と対照的に、ブルジョワの人生やキャリアの流れを把握することができる。

 ルイーズ・ブルジョワの作品は、過去の痛みや苦しみを昇華し、自己の再生を図ろうとする深い精神性に満ちている。その芸術は、たんなる美の追求ではなく、傷ついた魂がいかにして生き続けるかという問いを投げかけている。本展を通じて、ブルジョワが紡ぎ出す独自の世界観と、彼女が人生を通じて向き合ってきたテーマに、鑑賞者もまた新たな視点を持って向き合うことができるだろう。

展示風景より、手前は《ヒステリーのアーチ》(1993)
展示風景より
展示風景より

編集部

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