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時を超えるクチュール。香港のM+が見せる、デザイナー グオ・ペイの創造とアートの対話【2/3ページ】

 例えば、第1章「生命の歓び」では、田園風景や幻想的な夢の世界を表現したグオのコレクション「Garden of Soul」(2015)が展示。隣の壁面には、伝統的な絵画技法を現代的なアプローチで再解釈するパキスタン出身のアイシャ・ハーリドの作品が紹介されている。ハーリドの作品における文化的アイデンティティと現代性の融合は、中国の伝統工芸技術を西洋のテーラリングやオートクチュールに取り入れたグオの創造性とも響き合っている。

展示風景より、「Garden of Soul」(2015)コレクション
展示風景より、右はアイシャ・ハーリド《West Looks Eats》(2013)

 スペインの闘牛士のコスチュームからインスパイアされた立体的な銀刺繍が施されたコレクション「An Amazing Journey in a Childhood Dream」(2007)は、エレガントさや女性らしさを表現するいっぽうで、その背景には強い信念や生命への深い思いが込められている。このテーマは、リウ・イエの絵画《The Little Match-Seller》(2004)と共鳴するようにも感じられる。『マッチ売りの少女』のおとぎ話にインスパイアされており、少女が心の中にある光を守り続ける姿が描かれた作品だ。

展示風景より、手前は「An Amazing Journey in a Childhood Dream」(2007)コレクション
展示風景より、右から2番目はリウ・イエ《The Little Match-Seller》(2004)

 2017年に発表された「Legends」コレクションは、バロックやゴシックの教会から着想を得たもの。そのなかでもとくに巨大な赤いドレスは、当時86歳だったスーパーモデル、カルメン・デロリフィチェが身にまとい、2人の若い男性にエスコートされながらランウェイに登場した。このドレスとともに展示されているのは、石岡瑛子が1979年に渋谷パルコのためにデザインしたポスター《西洋は東洋を着こなせるか》。イッセイ・ミヤケの衣装をまとったフェイ・ダナウェイが2人の幼い少女とともに登場するこのポスターは、グオの作品と時空を超えた対話を生み出している。

展示風景より、左は「Legends」(2017)コレクション。右は石岡瑛子《西洋は東洋を着こなせるか》(1979)

 展覧会の最後には、グオの初期の作品であり、彼女を国際的なオートクチュールの舞台に押し上げた代表作が展示されている。この豪華な金色ときらびやかな装飾が施されたドレス《Magnificent Gold》は、2006年に彼女が初めて開催したオートクチュールショーで発表された「Samsara」コレクションに含まれるもの。このコレクションでは、19世紀の西洋宮廷のドレスのシルエットに中国刺繍を融合させ、「Samsara(輪廻)」というタイトルが象徴するように、人間と自然の生命のサイクルが表現されている。

展示風景より、左は《Magnificent Gold》(2006)
展示風景より

 同作と関連して展示されているのが、オノ・ヨーコが1966年に発表し、後にブロンズで再鋳造した彫刻《Apple》(1966/1988)だ。同作は、特定の記憶や自然のサイクル、そして生命の誕生と朽ちる過程を象徴しており、伝統を守りつつ新たな創造を行い、その衣装に物語を込めて未来へと伝えようとするグオの作品とも共鳴する部分がある。

編集部

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