また、本展では、グオが持つ伝統工芸への深い関心もうかがえる。2018年のコレクション「Elysium(楽園)」の《The Gold Boat》は、その名の通り「黄金の船」を象徴するシルエットを持ち、ドレスの部分は中国安徽省の竹細工の職人と協力して、竹を織り上げたものだ。この衣装には本物の乾燥した花や小枝も使用されており、生命の成長と朽ちる過程を表現している。また、2019年のコレクション「East Palace」では、京都の織工房・民谷螺鈿の職人とコラボレーションしており、螺鈿技法を織物に取り入れ、美しい光沢を持つ作品を生み出している。
「グオ・ペイはその作品を一種のアートとして見なし、未来に記憶を引き継ぐものとして扱っている」と横山は語る。グオと彼女のアトリエの職人たちが手がけた衣装を手にした人々は、それを次世代へと受け継ぐだろう。
「私たちが日常的に大量に捨てている衣類とは対照的に、この点を本展で慎重に問いかけを行う必要があった。彼女のガーメントが美術館でゆっくりと鑑賞され、物語を紡ぐことで、ファッションを超えた『アート』としての地位を確立している。それこそが、私たちがこの展覧会を開催する理由だ」(横山)。
本展は、グオ・ペイがクチュールの枠を超えて、どのように伝統工芸や文化、そしてアートを再解釈し、新たな価値を創造してきたかを紐解く貴重な機会だと言える。時代を超えた物語を持つM+のコレクションとともに、伝統や創造の本質について考えてみてはいかがだろうか。