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特別展「吟遊詩人の世界」(国立民族学博物館)開幕レポート。詩をつくること、歌うこと、その現代における可能性【2/4ページ】

 川瀬が担当したのはエチオピア高原の吟遊詩人。エチオピア高原には弦楽器マシンコを奏でながら歌う「アズマリ」や、家々の軒先で門付けを行うラリベラといった集団が存在する。なかでもアズマリは歌うことを生業としてきた芸能者であり、様々な社会的役割を担ってきた。歌い手のみならず、聴き手も即興的に生み出すという文化が興味深い。「ヴェゲナ」とよばれる大型の竪琴も圧巻だ。

展示風景より、エチオピア高原の吟遊詩人たちの衣装や楽器

 東京学芸大学准教授・小西公大は、インド・タール砂漠における移動民/定住民の枠を超えた多様な芸能集団による広大なネットワークを紹介。同地では、「マーンガーニヤール」(ムスリム楽士集団)、「ボーパー」(神話の絵解き芸)、「カト・プトリ」(人形劇)など、様々な芸能集団が活動してきた。とくに、ラージャスターン地方に伝わる英雄や偉大な王、王女たちの物語を人形劇として語るカト・プトリが使う木彫りの人形の愛らしさには目を奪われる。

展示風景より、カト・プトリが使う木彫りの人形

 インドからバングラデシュにかけて広がるベンガル地方はノーベル文学賞を受賞したラービンドラナート・タゴールを生んだ、詩作の盛んな土地である。ここを担当したのは国立民族学博物館准教授の岡田恵美だ。内なる魂との合一を探求するために家々をまわり詩吟する吟遊行者「バウル」たちの衣服や楽器、ポト絵を描いて神々の物語から新型コロナウイルスのパンデミックや自然破壊などまでを絵で語るポトゥアなどが紹介されている。

展示風景より、ポトゥアが描くポト絵

 国立民族学博物館教授の南真木人は、ネパールの「ガンダルバ」と呼ばれる楽師を紹介。村々を訪ねて擦弦楽器サーランギで弾き語りを行うガンダルバは、施政者の偉業や神々の物語などを語っていたが、1970年代以降は外国人観光客に歌を聴かせ、楽器を販売するかたちへと変化していった。変容しながらも、よりボーダレスな旅人となっていったガンバルバたちの道のりをたどる。

展示風景より、ガンダルバの使うサーランギ

 モンゴル高原の遊牧民たちに連なる詩の系譜の展示を担当したのは、国立民族学博物館教授の島村一平。遊牧民たちは移動をしながら生活をするため、紙ではなく口で物語を語る口承文芸を高度に発達させてきた。遊牧民たちは物語をつくり、それを暗記するために韻を踏んだ。こうした、顔を踏みながら物語を歌い語るシャーマンや大道芸人「トーリチ」の系譜を、本展ではモンゴルの現代のラッパーたちへと結びつける。

展示風景より、モンゴルのトーリチやラッパーの衣装

 13世紀、西アフリカに誕生したマリ帝国の建国の物語「スンジャタ叙事詩」を伝承してきた語り部「グリオ」を紹介するのは国士舘大学教授の鈴木裕之だ。グリオたちの衣装は絢爛豪華なかつての王朝文化をいまに伝える華やかなものであり、その歌声は力強く耳にいつまでも残る。

展示風景より、グリオの衣装

編集部

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