戦争の記憶と未来を見据えて。4.「両大戦間」を超えて:After1939
戸惑いや不安をはらみつつ多様に煌めいた時代は、ファシズムの台頭と第二次世界大戦の勃発で終わりを告げる。戦火を逃れアメリカに亡命したアーティストは700名にのぼるそうだ。以後、アートシーンはニューヨークへと移っていく。アーティストたちの去就と戦後の展開を垣間見るエピローグ。
ここでは、イギリス出身の版画家スタンレー・ウィリアム・ヘイターに注目したい。パリに版画工房を構え、ジョアン・ミロ、エルンストたちに版画技法を伝え、ニューヨーク亡命後もジャクソン・ポロックらアメリカのアーティストに影響を与えた人物だ。ソフトグランド・エッチングによる動きのある柔らかな線や、銅版の腐食深度やインクの粘度などを利用した独自の一版多色刷りの技法を確認しよう。
フェルナン・レジェが絵とテキストを手がけた挿絵本『サーカス』が最後を飾る。第一次世界大戦の従軍中に兵器の機能美に魅せられた彼が、戦後フランスに帰国した晩年に遺したのは、カラフルな画面にどこか淋しさをたたえたサーカスの情景と「20秒で破壊される樫の木が、再び芽を出すのには1世紀かかる」と綴った自然の再生に託した平和への祈りだ。
本展は両大戦間に近似しているといわれる現代の世相に端を発して企画された。飛躍的な技術革新で利便性が高まり、ますますグローバル化するいっぽう、排他主義を掲げるナショナリズムもふたたび台頭しつつあるいま、この空間は、わたしたちに何を語りかけてくるだろうか。