新たな表現を版画に見いだす。3.モダニズムの時代を刻む版画
この時期、写真や映画が新しい表現として脚光を浴びるなかで、敢えて旧来からある版画で表現を追求したアーティストが、「抽象表現」「挿絵本文化」「シュルレアリスム」のキーワードから紹介される。
古い慣習を捨て新時代へと進むモダニズムと、近代文明を捨て伝統に立ち返る「秩序への回帰」のふたつの動向がせめぎ合う第一次世界大戦後のヨーロッパで、伝統的な写実から離れたアーティストは抽象表現へ向かい、その版画は前衛的なイメージとして広がっていく。ピエト・モンドリアンと並びフランティシェク・クプカの版画が興味深い。
いっぽう、パリでは挿絵本文化が花開き、古典的な技法が改めて注目される。アンリ・マティスやパブロ・ピカソなど巨匠たちも多く版画を制作した時代。ラウル・デュフィらが設立した独立版画協会は版画のリバイバルをけん引する。協会のメンバーとして、独自の技法を編み出した長谷川潔をみるのも新鮮だ。
シュルレアリスムでは、マックス・エルンストのコラージュを挿絵にした「コラージュ小説(ロマン)」が原画と併せて見られる嬉しい機会だ。このほかマン・レイのカラフルなポショワール『回転扉』や、サルバドール・ダリの銅版画『マルドロールの歌』の連作も紹介される。