「両大戦間のモダニズム:1918-1939 煌めきと戸惑いの時代」(町田市国際版画美術館)レポート。20世紀の光と影を版画表現で追う【3/5ページ】

第一次世界大戦後の各国の諸相。2.煌めきと戸惑いの都市物語

 第一次世界大戦後は、各国様々な立場で束の間の平穏を享受した。各々の都市をテーマとした版画や雑誌、絵本などの印刷物に、新しい社会への期待と不安を読み取ることができる。

  戦勝国フランスは「狂騒の時代」と呼ばれた好景気。ファッションの発信地パリでは雑誌が続々と再刊される。型紙を使用して手彩色をする「ポショワール(ステンシル)」の手法による美しく豪華な雑誌は、その技術とともに注目したい。アール・デコに代表される流行は、同じく戦勝国としてニューヨークに摩天楼が形成されつつあったアメリカに『ヴォーグ』誌にも波及し、大正期の日本でも憧れをもって受容されていく。藤田嗣治が活躍したものこの時期だ。

「2-1 フランス:パリ・モードの輝き」展示風景より
展示風景より、『ヴォーグ』(伊藤紀之コレクション)

 多額の賠償金を課せられた敗戦国ドイツはワイマール共和国が成立するも極端なインフレのなかで、ある種ヒステリックな喧騒を抱える。戦争の悲惨と、都市の危うさが、マックス・ベックマンらの作品に漂っている。

展示風景より、マックス・ベックマン『都市の市』(1921、町田市国際版画美術館)

 社会主義国家となったロシア(ソビエト連邦)では、芸術家たちも理想と期待から「ロシア・アヴァンギャルド」運動を進め、子供の絵本やプロパガンダ雑誌などに展開する。アヴァンギャルドの多様な活動は、やがて国家の統制により粛清されていくが、複雑なとじ込みや異なる紙を重ねたプロパガンダ誌の製本とレイアウトはいまも斬新である。

展示風景より、ソビエトの絵本

編集部

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