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「スーラージュと森田子龍」(兵庫県立美術館)開幕レポート。世界初の二人展

抽象絵画の巨匠であるピエール・スーラージュと書の巨匠・森田子龍。このふたりを同時に見せることで、芸術家の出会いを振り返る世界初の展覧会「スーラージュと森田子龍」が兵庫県立美術館で始まった。会期は5月19日まで。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より

 コロナ禍によって二度延期された「スーラージュと森田子龍」がついに兵庫県立美術館で始まった。会期は5月19日まで。担当学芸員は鈴木慈子。巡回なしの単館開催だ。

 この展覧会は、フランスのアヴェロン県と兵庫県との20年をこえる友好提携を記念して行われるもの。1950年代から直接交流のあった画家のピエール・スーラージュ(1919〜2022)と書家の森田子龍(1912〜1998)の二人展は世界初となる。

 スーラージュはフランス南西部アヴェロン県ロデーズ生まれ。画業の最初期から晩年に至るまで、一貫して抽象を追究した。2014年、故郷ロデーズにその名を冠した美術館が開館。生誕100年を記念し、2019年12月から20年3月にかけて、ルーヴル美術館で個展が開催されている。生前にルーヴルで個展が開かれたのは、ピカソ、シャガールに次いで3人目だ。

展示風景より

 いっぽうの森田は地元・兵庫県の豊岡市生まれ。世界的に知られる前衛書家の顔のほかに雑誌編集者としても活動し、師・上田桑鳩のもとで1939年頃から『書道芸術』の、戦後の48年からは『書の美』の編集に携わった。そして51年には『墨美』を創刊し、81年に301号で終刊するまで、「書芸術雑誌」として幅広い内容を取り上げたことで知られる。その作品においては、50年から60年代にかけて欧米で開催された展覧会に次々と出品され、大きな注目を集めた。

展示風景より

 このふたりの交流は、森田が『墨美』でスーラージュを紹介したことからスタート。『墨美』26号(1953年8月)には、本人から提供された作品写真10枚が掲載されている。森田はモノクロームの作品を描く画家たちを「白黒の仲間」と呼んでおり、58年に初来日したスーラージュは、森田らと直接意見を交わしたという。また63年に森田がヨーロッパを歴訪した際には、パリでスーラージュ夫妻と再会している。

展示風景より、『墨美』26号(1953年8月)

 生前親交のあったふたりの巨匠を同時に展覧する本展。スーラージュは他の作家と同じ空間に展示されることを好まなかったという。その意向を反映し、本展はスーラージュと森田、それぞれの作品を部屋ごとにわけて展示しているのが特徴だ。

 スーラージュから見ていこう。まず会場に並ぶのは、スーラージュ美術館から出品される17点。このうちじつに16点が日本初公開だ。このなかには、紙にクルミ染料で描いた作品も含まれる。

 クルミ染料とは、家具職人が使う染料。スーラージュは職人が多く住む街で青年時代を過ごしたため、この染料に興味を持っていたという。これをツボに入れ、湯煎して使用していた。

 残る1点の《絵画 200×150cm、1950年4月14日》は、1951年に日本各地を巡回した「日仏美術交換 現代フランス美術展 サロン・ド・メェ日本展」に出品された作品で、スーラージュにとっては日本初の展示だった。日本での展示はじつに約70年ぶりとなる。

展示風景より、右が《絵画 200×150cm、1950年4月14日》(1950)

 このほか、東京国立近代美術館、富山県美術館や大原美術館、彫刻の森美術館からも作品が出品されており、水平の溝が幾重にも重なった黒の大作《絵画 324×400cm、1987年》も見ることができる(1つの部屋に同作だけ展示するという大胆な試みは見事に成功している)。

スーラージュの展示風景
展示風景より、左からピエール・スーラージュ《絵画 202×159cm、1966年7月5日》(1966、スーラージュ美術館蔵)と《絵画 130×162cm、1966年7月22日》(1966、富山県美術館蔵)
展示風景より、ピエール・スーラージュ《絵画 324×400cm、1987年》(1987、彫刻の森美術館蔵)

 いっぽう、森田の展覧会が神戸で開催されるのは約30年ぶりのこと。本展では50〜60年代に制作された約30点の作品が並ぶ。いずれも海外展覧会の出品歴がある作品ばかりだ。

 60年代、子龍は独自の技法である「漆金」を生み出した。これは、黒いケント紙にアルミ粉を混ぜたボンドで書き、表具屋が人工の漆をかけることで書が金色に輝くというものだ。海外に作品を展示する際に痛みやすい紙とは異なり、より頑丈なものを目指した結果だという。筆跡をしっかり残し、書の特徴を生かしながらも海外でも受け入れられる絵画的な要素を見せた試みだと言える。

展示風景より、森田子龍《坐俎上》(1953、兵庫県立美術館蔵)
展示風景より、森田子龍《龍》(1965、清荒神清澄寺蔵)
森田子龍の展示風景より
展示風景より、子龍の作品の向こう側にスーラージュの絵画が見える

 「黒の画家」ピエール・スーラージュと、「墨人会」を結成して新しい書のあり方を追い求めた森田子龍。その見事な共鳴を感じられる本展は、スーラージュ美術館のブノワ・ドゥクロン館長が言うところの「ふたりの精神の再会」にほかならない。

展示風景より、『印』発表会芳名帳(1980、個人蔵)

編集部

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