コンサルティング大手のPwCコンサルティングによる初の現代美術展「How to face our problems」が、代官山ヒルサイドフォーラムで開幕する。一般公開会期は2月27日〜3月2日。
本展はPwCが「現代アートを通した重要な課題の共有」「PwCのあり方を伝える」「クリエイティブやエモーションの重要性への意識」といった課題に取り組む機会として設定されたもの。会場にはアルフレド・ジャー、ミリアム・カーン、森万里子、潘逸舟、金光男、涌井智仁の6名の作家の作品が会場に集まった。
アルフレド・ジャーは1956年チリ・サンティアゴ出身。世界各地で起きた歴史的な事件や悲劇、社会的な不均衡に対して、綿密なリサーチと取材にもとづくジャーナリスティックな視点を持って対峙してきた。
展示されているネオン管による作品《Be Afraid of the Enormity of the Possible》には、「ENORMITY(巨大さ、深刻さ)を恐れよ」というメッセージがかたちづくられている。この「ENORMITY」とは、国家や経済といった個人を飲み込む大きな力、あるいはAIのような人間を超すかのような技術についても示唆している。こうした社会にいかに対峙するのか、本展そのものを照射するような作品だ。
フェミニズムや反核運動、さらに移民や難民といった課題に向き合いながら作品を制作しているスイスのアーティスト、ミリアム・カーンは、ペインティングとドローイング計8点を展示。
海に沈む難民を意識させるものや、検閲をテーマとした作品、あるいは植物のモチーフとなど、その絵画は色彩豊かながらも、つねに社会課題を意識させる。
国際的に高い評価を受ける森万里子は、個人や時代を超えた巨大な存在の持つ精神性を表現してきた。本展に出展されている《Radiant Being Ⅵ》は、人々の内面に存在するという太陽をCGとドローイングによって表現した。
幼い頃に中国からやってきた移民である潘逸舟は、2点の大型の映像作品を展示している。いずれも潘がアーティスト・イン・レジデンスを行う長崎の対馬でつくられた作品だ。《Musical Chairs》は海上に少しだけ現れた岩の上で5人の人々が椅子取りゲームをするものだ。石はやがて潮が満ちると隠れて消えてしまうが、ここでは世界中で奪い合う領土という存在の希薄さが表現されている。
もう一点の《海で考える人─呼吸》は、潘が海の中でロダンの《考える人》のポーズを海中で維持する映像作品となる。浮力や呼吸とのせめぎあいのなか、大きな力に回収される自己を身体を通じて思考することで、個と権力の関係を考えさせる作品だ。
涌井智仁はテクノロジーやエコロジーといった観点で制作を行っている作家として選ばれた。産業廃棄物となったジャンクパーツを「ハッキング」し、絶命した機器を異なるかたちで延命する涌井。生成AIによる光を介した「神」を表現したヴィデオ・インスタレーション《Various Lights of Light》が、これらのパーツを支持体に展開される。
金光男は吹き抜けに平面作品《Both#11》とカナディアンカヌーをつかった作品《夜の海》を組み合わせたインスタレーションを展開。前者は金網のイメージを版にし、炎で傷つけ溶かしながら定着させることで制作されている。これは在日韓国人三世である金が、日本社会に溶け込もうとしていたときと同様、各国の移民が置かれた状況とも重なる。
《夜の海》は、1948年に起こった民衆蜂起と虐殺「済州島四・三事件」を背景にした作品。金の母が幼いころ、祖母から渡されたビスケットを握りしめて日本に渡航してきたというエピソードを受けており、ボートをよく見ると真鍮製のビスケットが置いてあることを見つけることができるはずだ。
コンサルティングハウスが現代美術を通して思考したとも言える本展。世界のいまを把握し、人々の声に耳を傾けるための契機としての現代美術の役割を考えさせてくれる展覧会となっている。