怒れるアーティスト、ミリアム・カーン
スイス出身のミリアム・カーン(1949〜)は、一見幻想的で鮮やかな色彩に具体的な抵抗の意志を宿す絵画表現で、国内外で重要な現代アーティストのひとりと評されている。カーンのフランス公立施設では初めて行われる大規模な個展「Ma pensée sérielle」(「私の一続きの想い」の意)が、国営の現代アートセンターであるパレ・ド・トーキョーで5月14日まで開催中だ。同展ではカーンが1980年から現在までに手がけた、デッサンや油絵、写真や動画、文章を含む200点もの作品を展観できる。
半世紀におよぶカーンの創作の主な原動力は、本人もそう述べるように「怒り」である。スイスのバーゼルで古典美術を商う家庭で育ち、アーティストを志した日からアートで表現し生計を立てられるように自分を追求してきた。同時に、1968年から73年にあたる学生時代からフェニズムや反核を表明し、また妹の夭折などを経て、実存主義のカーンが感じてきた生命や人体の脆さに加え、世界各地で戦争や差別の思考がふるう暴力に人権を侵され迫害される個人を想い、それらへの抵抗をあらわす作品を多数発表してきた。
展示が始まった2月の夜に聞いたラジオのインタビューによると、現在は祖国の美しい自然に囲まれたアトリエ兼住居にひとりで暮らしながら、毎日数時間集中して制作する。なるべく迅速に、2時間程度で作品を完成させることが多いとも話す。展示会場の入り口で観られるドキュメンタリー映像では、制作風景は決して見せないが、世界の美術館で精力的な発表を続けるカーン本人が指示を出す設営も即興的であることがわかる。トークなどにも登壇し、笑顔を絶やさないが、歯に衣を着せぬ様子だ。