7月30日に始まった国際芸術祭「あいち2022」の連携企画事業として、在日スイス大使館などの主催による「Kizuki-au 築き合う-Collaborative Constructions」展が愛知・常滑市内の会場でスタートした。
本展は、同大使館がスイス連邦工科大学チューリヒ(以下、ETHチューリヒ)のグラマツィオ・コーラー研究室と東京大学のT_ADS 小渕祐介研究室とともに、建築におけるデジタルプロセス、人とロボットとの協働、技術的・文化的相互作用を追求するというスイスと日本の協働プロジェクト。2025年の大阪・関西万博に向け、サステナビリティに焦点を当てたスイスのコミュニケーション・文化プログラム「Vitality.Swiss」の一環として開催されている。
やきもの工場に囲まれた会場では、2研究室によるふたつのインスタレーションが展示されており、創造的で革新的な技術を用いた新たな建築のあり方を実証する。
ふたつのインスタレーションの共通点には、人とロボットとの協働作業で制作され、未来を見つめながら過去との関わりを検証することがある。タイトルの「Kizuki-au」について小渕祐介(東京大学工学系研究科建築学専攻 准教授)は、「一緒につくる」という「築き合う」と「心を気づかせる」という「気づき合う」のふたつの意図があるとしつつ、「建築はたんに一緒につくるだけでなく、心を共通することもその可能性にある」と話す。
会場のエントランスに設置された東京大学チームによるインスタレーションは、木製の柱と梁で構成された門のような構造物と、その梁に吊るされた45本の陶器によるネックレスのようなチェーンによって構成。常滑市の陶芸家が制作した陶器によるチェーンを13歳から53歳まで体格も体力も様々な子供と大人に持たせ、各々の身体的個性に応じたサイズや形状をスキャンしてデータ化する。また、コンピュータによって構造的に最適な設置場所を計算し、ロボットが梁に開けた穴にそれらのチェーンを人の手で1本ずつ吊り下げていく。
小渕によると、すべてのチェーンを安定させるため、コンピュータによってその交差や梁との接点を計算することは同作のポイントのひとつだという。重量や長さが様々な参加者にあわせてデザインされたチェーンをつくることによって、「新しい価値観を生み出し、様々な人たちの最大限の可能性が発揮できるようなシステム」がつくりだされた。
また、陶器のチェーンはのれんのように来場者を迎え入れるとともに、温度調節を行う環境装置としても機能する。梁に設置されたミストノズルから陶器へ噴射した水分が気化する際、ミストと陶器の蒸散冷却効果によって構造体の周囲は4〜5°C涼しくなると予想される。
その構想について小渕は次のように述べている。「ミストを楽しむのは、日本の伝統的な文化に絡めながら考えられる。例えば、風鈴の場合は、音を聞くことによって風を感じることができる。花火も散ることによって涼しさが感じられる。こうしたたんに皮膚で感じる体感温度ではなく、五感を使って文化的な伝統を技術に置き換えることによって、涼むことを楽しむ装置をつくりたかったのだ」。
また小渕は、今回のプロジェクトにおいて「色々学ばせてもらった」ことに対して感謝を述べた。「従来であれば研究室で研究をして、大学の施設のなかで作品を発表しているが、今回は一般の方々と一緒に作品をつくり、公の場でお披露できたことに大変感謝している」。
いっぽう、ETHチューリヒのチームが制作したインスタレーションは、5つの木造骨組みモジュールによる3階建ての構造体。ネジなどの金属部品を一切使用せず、それぞれのモジュールはETHチューリヒのロボティック・ファブリケーション・ラボでプレハブ工法を用いて建設され、コンテナによって日本に輸送されて組み立てられたという。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックにあわせて設置される予定だったこのプロジェクトだが、新型コロナウイルス感染症の影響で中止を余儀なくされた。プロジェクトリーダーであるハネス・マイヤー(ETHチューリヒ グラマツィオ・コーラ研究室シニアリサーチャー)は、この構造体は「オリンピックのアスリートのように非常に強靭なものだ」としつつ、地震や台風などに耐えられるように設計されているという。
また同作では、日本の長年の伝統である宮大工とロボットやデジタルファブリケーションなどの新技術を融合して取り組んでいる。「建設は材料消費の大きな割合を占めている。私たちは建築の方法を見直さなければならない。日本では非常に長い伝統を持つ、木材を使った建築はひとつの選択肢であり、持続可能な選択肢でもある。私たちがここで紹介したいのは、伝統的な大工の技術と工業的な生産といったふたつの世界をどのように組み合わせるかということ。つまり、先端技術、コンピュータデザイン、ロボット工学、デジタル制御の機械を使い、伝統に学び、それを応用し、デジタル技術と組み合わせて、非常に効率的で、かつ静的な建築方法という新しい提案をすることだ」(マイヤー)。
マイヤーは、「芸術はつねに私たちに問いかけを行っている。我々はどのように生きていきたいのか、どのように資源を有効活用していきたいのか、という問いかけを行うのも今回のプロジェクトの目的だ」と話す。気候変動など危機的状況に直面しているいま、建築におけるデジタルプロセスを追求し、新たな建築方法を提案しようとする2研究室のアプローチをぜひ会場で確かめてほしい。