イケムラレイコと塩田千春。日本を代表するふたりのアーティストに共通するのは、ドイツ・ベルリンを拠点にしているということだ。このふたりが新刊対話集『手の中に抱く宇宙 イケムラレイコ+塩田千春 対話集』を刊行。これを記念し、銀座 蔦屋書店 GINZA ATRIUMで展覧会が始まった。
イケムラと塩田は2021年、名古屋のケンジタキギャラリーで2人展「手の中に抱く宇宙」を開催しており、コラボレーションドローイングが出品されたことでも注目を集めた。
コロナ以前、互いに意識はしていたものの、距離感は近いものではなかったという。しかし新型コロナウイルスのパンデミックによるロックダウンで移動が制限されていた期間、ふたりは互いの自宅を行き来し、対話を重ねるようになった。
5回にわたる対話をまとめた「対話集」では、コロナ禍での制作や、女性アーティストとして生きること、ベルリンの壁崩壊後のアートシーン、作品を言葉にすること、家族、日独の芸術教育、美術を教える側と教えられる側の考え、これからのアートマーケットなど、互いの作品を見ながら意見交換し、雑談を交え、リラックスした雰囲気で率直に語っている。
この日、展覧会のため来日したふたりの様子からも親密さは伺えた。塩田は対話を重ねるうちに心が開け、互いの共通点も見いだせたという。いっぽうのイケムラもグッと距離が近くなったと振り返る。
こうしたふたりの関係性の変化から生まれたのが、本展でも展示されているうコラボレーション作品だ。アーティストがコラボレーションを行うこと自体は珍しくない。しかしイケムラと塩田はひとつのキャンバスを共有し、イケムラが絵具を、塩田が糸を使い、ふたりでひとつの作品を生み出している。
塩田はもともと京都精華大学芸術学部洋画専攻を卒業するなど、絵画をバックグラウンドとして持っている。いまはインスタレーションが表現の中心だが、イケムラのアトリエを訪れた際に絵画への感動を覚え、「何かできればと考えた」という。
イケムラも「同じキャンバスにふたりの作家が関与することは冒険だ」としつつ、信頼関係が自然と構築されたことで作品が生まれたと話す。「とても学ぶことがあった」というこのコラボレーションは、今後も継続されていく。
コロナはアートの世界にも大きな影響を与えたが、それがなければこの対話・コラボレーションが生まれることはなかった。どんな状況でも創造することをやめなかったふたりの成果がここにある。
ベルリンを拠点に世界で活躍する2人のアーティスト、イケムラレイコと塩田千春。2021年には名古屋で2人展が開催され、そのなかではコラボレーションドローイングも出品され話題になった。