生まれ変わった「滋賀県立美術館」の内部が公開。目指したのは「リビングルームのような美術館」
滋賀県立近代美術館がリニューアルし、6月27日に「滋賀県立美術館」として再開館する。その新しくなった内観や館のステートメント、開館後の展覧会内容を紹介する。
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6月27日、滋賀県立近代美術館がリニューアルし、新たに「滋賀県立美術館」としてオープンする。その内観と、ディレクター(館長)に就任した保坂健二朗によるステートメント、そして開館後の展覧会内容が発表された。
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滋賀県立美術館のオープンには紆余曲折があった。1984年8月に開館した滋賀県立近代美術館は、2017年の4月より増築・改修工事のため休館。当初は妹島和世と西沢立衛による建築家ユニット「SANAA」の設計のもと既存の建物改修と新棟建設をすることが計画され、「新生美術館」としての2020年開館を目指してきた。しかしながら2018年7月に計画の凍結が発表。その後は、老朽化対策や作品収蔵スペースの拡大などに対応するためのリニューアル工事を進めてきた。
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今回のリニューアルで館名から「近代」という名称を取り「滋賀県立美術館」となった意図について、保坂は次のように語った。
「当館は収蔵点数が今年3月現在で1786点と県立美術館としての規模は比較的小さい。しかしながら、近世の絵画、日本画家の小倉遊亀や染織家の志村ふくみ、マーク・ロスコやロバート・ラウシェンバーグといった戦後アメリカ美術の良作など、特徴のあるコレクションを持っている。また、2016年よりアール・ブリュットの作品を継続的に収蔵していることも、ほかの公立美術館ではない当館ならではの特徴だと自負している。こうしたコレクションの幅を持ちながらも、『近代』という言葉は時代を限定してしまう傾向がある。今後多様な美術を紹介していくという方向性も込めて、活動実態に合わせるために『近代』の名前を取ることになった」。
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館の方針としては「CALL」という4つの軸が示された。これは、プロのアーティストのみならず、広くものづくりをする人の活動に寄り添う「Creation」、アートとは何かという問いかけをつねに来館者に投げかける「Ask」、地域に寄り添う「Local」、県民を中心に幅広い人々の学びに貢献する「Learning」の頭文字から取った言葉だ。
再開館にあたり、館の内部がどのようにリニューアルが実施されたのかを見ていきたい。
まず、本館のコンセプトをもっとも象徴した存在と言えるのが、エントランスだ。高い天井と大きなガラス窓による広々とした建築を活かしながら、大阪を拠点にするクリエイティブチームのgrafがデザイン。滋賀の信楽焼による陶製の素材を用いたサインやベンチ、照明を導入し、居心地の良さを感じる空間が出現した。また、グラフィックデザインやサイン計画は原田祐馬により設立されたUMA/design farmが担当している。
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また、エントランスにはカフェスペースとミュージアムショップも設置。エントランス全体が、美術館のあるびわこ文化公園を訪れた誰もが気軽に入ることができる「ウェルカムスペース」となっている。
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こうした内観の方向性について保坂は「みなさんのリビングルームを目指した」と語る。作品を展示するだけではなく、町のリビングルームとして、人が介在する賑わいを創出していきたいという。ちなみに84年の最初のオープン時の同館のコンセプトは「県民の応接室」だったとのことで、これを踏襲しながらアップデートしたかたちにもなっている。
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また、今回のリニューアルにあたっては、館内の部屋や場所の名称をイメージしやすいものに変更。例えば「講堂」は「木のホール」に、中庭は「コールダーの庭」に、屋外展示場は「彫刻の庭」となり、より親しみの持てる名前になった。なお、保坂の役職が「ディレクター(館長)」となっているのも、専門職としての仕事内容をわかりやすく伝えることを意識したからだという。
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これまで「常設展示室」や「企画展示室」といった名称で分けられていた展示スペースも全面的にリニューアルし、名称も「展示室1、2、3」とした。
展示室1は日本美術を中心に展示することが想定されている。カーペットの床をフローリングにし、ガス消化設備を設置。壁紙は掛け軸などに合うようクロスに、ガラスケース内の照明もLEDとし、色温度の調節も可能となった。また、ガラスは新たに低反射フィルムがおごられた。
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展示室2は現代美術作品の展示が想定されるホワイトキューブ空間だ。展示室1の床よりも明るい色のフローリングに張り替えられ、また可動壁も設置。様々な形態の展示に対応することができる。
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展示室3はふたつの部屋に分割されており、日本美術と現代美術の双方に対応できるよう、ショーケースと可動壁の双方を兼ね備えた。このふたつの部屋をつなぐ通路には、先の近代美術館の時代からあった小さな部屋があり、「夕照の庭」と呼ばれる庭園をソファーに座りながら眺められるくつろぎのスペースとなった。このように、展示室内にも「リビングルーム」を感じさせる設備が整っている。
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また、みんなにやさしく使いやすい美術館として、旧食堂をキッズスペースにリニューアル。オムツ替えスペースや授乳室も設置された。これも同館が「ウェルカムスペース」に位置づける施設のひとつだ。
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同館で開催される展覧会プログラムも発表された。まず、6月27日のリニューアルオープンからは「Soft Territory かかわりのあわい」(〜8月22日)と常設展「ひらけ!温故知新 ─重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに─」(〜8月22日)が開催される。
「Soft Territory かかわりのあわい」は、休館中に長浜市、高島市、東近江市で開催した「滋賀近美アートスポットプロジェクト」の参加作家9名と、新たに参加する3名による展覧会。石黒健一、井上唯、井上裕加里、河野愛、小宮太郎、武田梨沙、西川礼華、藤永覚耶、藤野裕美子、松延総司、薬師川千晴、度會保浩の12名の滋賀ゆかりの若手作家が美術館全体を使って様々な表現を展開する。
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そして常設展「ひらけ!温故知新 ─重要文化財・桑実寺縁起絵巻を手がかりに─」は、近江八幡市の桑実寺が所蔵する、滋賀県が誇る名品《桑実寺縁起絵巻》を導き手として「パノラマの視点」「ストーリーを描く」「祈りの情景」の3つの観点から同館収蔵品を紹介するものだ。
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そのほか、9月18日からは「リニューアル記念コレクション展 回って遊ぶ声」が開催。田村友一郎、中尾美園、dot architectsを迎え、それぞれの視点で約1800点の同館収蔵品のなかから選りすぐった作品をジャンルの別なく紹介し、収蔵品を読み解いていく。また、来年1月22日からは「アール・ブリュット関連企画展(仮)」と称した、保坂自らが担当する企画展も控えている。
既存の美術館建築を最大限に活かしながら、2020年代の価値観をもってアップデートされた滋賀県立美術館。開かれた美術館として、その個性的なコレクションをどのように人々に届けていくのか、期待が高まる。
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