日本芸術院は変わるのか? 文化庁で検討会議始まる

日本政府がその功績を称え、芸術家を優遇する栄誉機関である「日本芸術院」。その制度改革をめぐり、文化庁で検討会議が始まった。

上野公園にある日本芸術院会館

 「芸術上の功績顕著な芸術家を優遇するための栄誉機関」(日本芸術院令第1条)として文化庁に設置されている特別機関「日本芸術院」。その会員の在り方をめぐり、文化庁が検討会議をスタートさせた。

日本芸術院とは

 日本芸術院の歴史は1907(明治40)年に遡る。文部省美術展覧会の開催に際し、「美術審査委員会」が発足(日本画・西洋画・彫刻)。その後、1919(大正8)年には展覧会開催だけでなく美術の重要事項について文部大臣に対して建議できる「帝国美術院」へと改組された。このとき、分野も日本画・洋画・彫像・工芸・書・建築と拡充。そして1947(昭和22)年には日本芸術院へと名称変更され、現在に至っている。

 日本芸術院は院長1名と終身の会員120名以内(12月15日の時点では102名が会員)で構成されており、その任命は院長の申し出によって文部科学大臣が行う。扱いとしては非常勤の国家公務員だ。国家公務員であるため年額250万円の年金も支給されており、日本芸術院関連の令和3年度政府予算額は5億2700万円におよぶ。主な事業は、芸術に関する重要事項の審議し、大臣または文化庁長官への意見すること、日本芸術院賞の授与などだ。

上野公園にある日本芸術院会館

 こうした日本芸術院には課題もある。会員は現在、美術(日本画、洋画、彫塑、工芸、書、建築)、文芸(小説・戯曲、詩歌、評論・翻訳)、音楽・演劇・舞踊(能楽、歌舞伎、文楽、邦楽、洋楽、舞踊、演劇)の3分野の芸術家で構成されているが、例えば「現代美術」や「写真」などグローバルな美術の世界では当たり前の分野には対応できていない。また日本映画は世界でも高く評価されることがあるが、芸術院に「映画」分野はなく、現在、映画監督として唯一の会員である山田洋次は「演劇」に属している。

 会員の選考方法も課題だ。日本芸術院会員になるためには既存の会員からの推薦が必要なため、多様性は確保しにくい。距離が近い者が集まるばかりでは、組織は変わらないだろう。加えて、巨額の予算が付いているにも関わらず、その事業内容が国民にほとんど周知されていないことも課題のひとつだ。

あり方の改革を検討

 こうした状況について、2015年にはすでに国会で議論の俎上に載せられていたものの、この5年間とくに大きな変化はなかった。そして昨年11月27日、衆議院文部科学委員会で日本芸術院の会員選考に関する国会質疑が行われ、立憲民主党・菊田真紀子議員が前例を踏襲したままでの税金投入や会員選考方法について改めて問題を指摘。萩生田文科大臣は答弁で、より広い視野で検討する必要性があることを明らかにしていた。

 2月1日に行われた第1回検討会議で萩生田大臣は「文化芸術の概念は広がっている」としながら、「議論をもう一歩進めていきたい。多様化した文化芸術の現状を踏まえた在り方などを議論いただきたい」と検討会議のメンバーに期待を示した。

検討会議に出席した萩生田光一文部科学大臣

 検討会議は、尾崎正明(茨城県近代美術館館長)、逢坂恵理子(国立新美術館館長)、加治屋健司(東京大学教授)、澤和樹(東京藝術大学学長)、建畠晢(多摩美術大学学長)、柳原正樹(京都国立近代美術館館長)ら13名が委員として参加。また高階秀爾、澄川喜一、加賀乙彦、野村萬の3名が現役の日本芸術院会員としてオブザーバー参加している。

 会議の主な検討課題は、会員として必要な要件などを踏まえた「会員の在り方」、多様化した文化芸術の現状踏まえた「分野の拡充」、推薦や選考の際の外部意見の反映を含めた「会員の選考方法」の3つ。検討委員会のメンバーは13名だが、うち9名が美術関係で、残り4名が演劇・映画関係者で構成されている。この比率からしても、議論の主な対象は日本芸術院第1部の「美術」と、いまは分野としては存在しない「映画」についてだと思われる。

 検討会議は今後4月中旬にかけて4回実施され、改革案をとりまとめる。このとりまとめ案がどのようなかたちで生かされるのかは現時点では明白ではないが、100年を超える歴史を持つ栄誉機関が現代に適したかたちに変わる大きなチャンスであることは間違いない。

第1回検討会議の様子

海外の栄誉機関は

 なお海外でも、日本芸術院にあたる国の栄誉機関は存在する。

 例えばイギリスの「ロイヤル・アカデミー」(会員数80名)、フランスの「フランス学士院」(会員数435名)やアメリカの「米国芸術文学アカデミー」(会員数250名)などだ。

 これらの栄誉機関はその財源を寄付・寄贈によって賄っており、国からの財政支出はない。いっぽうでドイツの「ベルリン芸術アカデミー」やイタリアの「アカデミカ・ディ・サン・ルカ」には政府からの補助金は入るが、それだけに依存するのではなく、展覧会などの事業収入もある。

 こうした国々の栄誉機関の会員はいずれも現会員が新会員を選考するシステムだが、会員に対して年金や給与は支払われておらず、あくまで「栄誉」を与えるのみとなっている。

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