メトロポリタン美術館は、過去一世紀のあいだ、今回のパンデミックが起こるまで、3日以上休業したことがなく、半年近くにわたる休業は、本館にとって前例のないことであった。近年は年間700万人の来場者を迎えており、そのうちおよそ3割が海外からの観光客だった。長期に渡る休業と、観光客が途絶えたことで、本年は1億5000万ドルの損失を見込んでいるという。
再開にあたっては、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)及び州と市のガイドラインに従い、従業員と来館者の安全を確保する。来館者数は、収容人数の25パーセントまでとし、マスクの着用が義務付けられた。入場は時間予約制で、現時点では、時間帯に融通が効けば、直近のチケットが確保できる状況となっている。
入館前には、検温が行われているが、あまり時間はかからず入場できる。従来の館内マップなどの印刷物やオーディオガイドの提供は中止される代わりに、デジタル版が準備されている。これまでは週7日開館していたが、今は火・水を除く週5日営業だ。
現在ニューヨーク州は、コロナウイルスの感染が拡大している州との間の移動制限勧告を行なっており、対象州からニューヨークを訪れる人には、14 日間の隔離を義務付けている(9月15日時点で対象州は30州)。いまのところ、本館を訪れているのは、地元の人々が大半の様子であった。
館内全体としては、劇的に空いている印象は受けないものの、人気作品がある展示室に行くと、がらんとしており、以前との差が感じられる。6フィートのソーシャル・ディスタンスが各所で推奨されているが、展示物の配置によっては、作品に見入っているあいだに、他の人に接近してしまう光景も見られた。一方通行表示が設置され、出会い頭の接触を防ぐための対策がなされている箇所が多くある。
創立150周年を迎えるにあたって、本館はおよそ2年をかけ、様々な記念行事を計画してきた。閉館を受け、その多くが中止されたなか、目玉企画であった「Making The Met, 1870–2020」展は、ようやく日の目を見ることになった。本展は250点の作品で、本館のコレクションの進化を支えた10のターニングポイントを振り返るもの。本展の企画を担当したアンドレア・ベイヤーは、「パンデミックとそれに続いた社会情勢をきっかけに、美術館としてのあり方を徹底的に再考する必要に迫られた。それに基づき解説ラベルの修正も行なった」という。
ダニエル・ワイス最高経営責任者は「本館はいままでに増して、人類の精神の力強さ、そしてアートが安らぎと回復をもたらし、自分を取り巻く人々と世界をよりよく理解する支えとなる存在であることを喚起する役割を担っていくだろう」と、再オープンに際する意気込みを語っている。