ジョージ・フロイド殺害事件に端を発する人種差別主義への抗議活動。これに対し、アメリカの美術館は相次ぎ声明文を発表し、連帯の意思を表明する動きを見せてきた。しかしながら、こうした美術館も内側に人種や多様性に関する問題を抱えており、内部告発の的となっている。
メトロポリタン美術館もそのひとつであり、同館ヨーロッパ絵画部門長キース・クリスチャンセンが、奴隷身分であった人々の解放を祝う「ジューンティーンス」(6月19日)に、フランス革命から歴史的な記念碑を救出した考古学者アレクサンドル・ルノワールの画像を個人のInstagramに投稿。アメリカで広がっている人種差別的な記念碑の撤去について「革命的な狂信者」の行動と比較したことで、批判を受けた。
こうした状況を踏まえ、メトロポリタン美術館は「Our Commitments to Anti-Racism, Diversity, and a Stronger Community(反人種主義、多様性、およびより強いコミュニティへのコミットメント)」と題した13の具体的な取り組みを発表した。
同館理事長兼CEOのダニエル・ウェイスとディレクターのマックス・ホレイン名義で発表された今回の取り組みは、スタッフ教育、コレクション・プログラム、ガバナンスなどについて、具体的なアクションや数値目標などを示したもの。
声明のなかでウェイスとホレインは、「米国政府やその政策、制度はすべて人種差別と不正を永続させる一因となっている。メトロポリタン美術館は過去を反省し、変革の担い手となることを目指さなければならない」としつつ、次のようにコメントしている。
「この数週間、私たちは美術館内外を問わず多くの声に耳を傾け、あるべき姿をかたちにするための協議を重ねてきた。このリストはすべてを網羅したものではないが、現時点で、数日後〜数ヶ月後の改善に向けた重要なアジェンダを示している。これらの行動のなかには、すぐ可能なものもあれば、実施までに時間がかかるものもあるが、私たちはそれぞれの行動の成功に向けて努力する」。
具体的な中身として、同館はスタッフへの人権教育を実施。無意識の偏見や制度的な差別についての認識を高めるため、管理職層は今後60日以内に、全スタッフについては180日以内にトレーニングを行うという(ボランティアは360日以内)。また4ヶ月以内にチーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)を採用することも明らかにした。CDOはCEO直属で、上級職員(senior Museum officer)扱いとなる。
加えて組織面では、管理職層を含め、黒人や先住民、有色人種を積極的に雇用するほか、インターンシップでは有給率を2022年までに100パーセント(現在は36パーセント)にすることにも言及している。
コレクションにもダイバーシティは求められる。同館では、有色人種のアーティストによる美術品の収集に重点を置き、今後12ヶ月以内に、総額1000万ドル規模の特定取得基金を設立。20世紀および21世紀のコレクションにおける有色人種アーティストの作品の量を増やすと当時に、展示においても有色人種のアーティストや集団の表現によって反人種差別主義的なアプローチを行うという。
ウェイスとホレインは「メトロポリタン美術館のリーダーとして、私たちは地域社会の福祉に責任を持ち、これらの約束を実現する責任を負っている」とする。「このリストは一朝一夕に美術館を変えるものではないが、美術館を進化させ、より大きな公平性、機会、そして公衆や他の人々へのサービスに向けて前進させるものだ」。