2016年のエルミタージュ美術館、そして翌17年のガリエラ宮パリ市立モード美術館など、相次ぐ個展でいま再び注目を集めつつあるマリアノ・フォルチュニ(1871〜1949)。その全貌を、日本で初めて紹介する展覧会「マリアノ・フォルチュニ 織りなすデザイン展」が、東京・丸の内の三菱一号館美術館で開幕した。
フォルチュニの名を聞けば、代表作であるシルクのドレス「デルフォス」を想像する人が大半だろう。しかし本展では、フォルチュニのファッション・デザイナーとしての仕事のみならず、画家、写真家、あるいは舞台関係の仕事など、様々な側面に焦点を当てるものとなっている。
本展主催のひとつであるフォルチュニ美術館のダニエラ・フェッレッティは展覧会にかける想いをこう語る。「4年もの時間かけて準備してきました。我々の『フォルチュニをこういう風に紹介したい』という想いをそのまま実現できた。フォルチュニは非常に多面的な人物で、様々な芸術で才能を発揮しました。その全貌を紹介できれば」。
19世紀スペインを代表する画家であった父、マリアノ・フォルトゥニ・イ・マルサの息子として生まれたフォルチュニ。そのキャリアが絵画を描くことから始まったのは自然の流れと言えるだろう。本展では、自画像や子供時代の油彩画などが並ぶ序章「マリアノ・フォルチュニ ヴェネツィアの魔術師」から始まり、続く第1章では「絵画からの出発」として、イ・マルサの作品とともにフォルチュニの絵画を紹介。フォルチュニ父子にとっていかに絵画が重要な意味を持っていたのかを示す。
フォルチュニは、生涯にわたって絵画を描き続けたが、そのいっぽうでは様々な芸術への関心も示していった。第2章「総合芸術、オペラ、ワーグナーへの心酔」では、その好奇心の強さを知ることができる。
リヒャルト・ワーグナーのオペラに感銘を受けたというフォルチュニは、応用電気工学や物理学、光学などの研究にも目を向け、自作の舞台装置の縮小模型を製作。半球形のステージセットに、拡散光と間接照明を用いた照明装置を組み合わせた「クーポラ・フォルチュニ」はヨーロッパ中の劇場で採用されるなど、もはや「画家」の範疇にとどまらない仕事を残している。
先のフェッレッティ館長によると、フォルチュニは芸術と技術を組み合わせることを得意としており、34もの特許を取得するなど、「20世紀のレオナルド・ダ・ヴィンチとまで言われていた」のだという。
こうした総合芸術への取り組みのなかで培ったものが、フォルチュニの代名詞であるファッション・デザインへとつながっていく。
第3章「最新の染織と服飾 輝く絹地と異国の文様」および第5章「異国、そして日本への関心と染織作品への応用」では、フォルチュニのファッション・デザイン、テキスタイル・デザインに焦点を当てて紹介する。ここでの目玉は、当然ながら「デルフォス」だ。
「デルフォス」は、1896年に発見された紀元前5世紀初頭の青銅彫刻《デルフォイの御者》に着想を得たシルクドレス。中国や日本などから輸入したシルクサテンなどを様々な色に染め、手作業で細かなプリーツを付けて筒状に縫製したもので、ヴェネチア・ムラーノ島でつくられたガラスのトンボ玉を重り兼装飾として施したシンプルなドレスだ。
矯正下着が不要なデザインであるデルフォスは、20世紀のファッションへとつながる画期的なものだった。本展では、島根県立石見美術館や京都服飾文化研究財団、共立女子大学博物館などが所蔵するドレスの数々が並ぶ。
またフォルチュニが生きた時代は、様々な芸術家がジャポニスムの影響を受けた時代。フォルチュニも例外ではなく、日本の染め型紙などからその痕跡を見ることができる。
今年はフォルチュニの没後70年に当たる節目。本展は、日本文化をインスピレーションのひとつとしていたフォルチュニの全貌をあらためて認識する貴重な機会となるだろう。