日本でも人気の高いファッション・デザイナー、マルタン・マルジェラ。1957年ベルギーに生まれ、ラフ・シモンズやドリス・ヴァン・ノッテンらを輩出したアントワープ王立美術アカデミーを80年に卒業後、ジャン=ポール・ゴルチエのアシスタントを経て、88年に自身のブランド「メゾン・マルタン・マルジェラ」を設立した。
衣服の表と裏を逆転させたり、古着のリメイクやダメージ加工をほどこした生地の使用、ブランドの名称を直接的に書かず、数字で表すというブランドロゴ、ロゴの縫い目は表から見えるように縫い付けるなど、さまざまな実験的手法を提示したマルジェラ。そのコレクションは、「コンセプチュアル」「脱構築」「デストロイ・コレクション」とも呼ばれ、高い評価を得た。いっぽうで自身が露出することを嫌い、顔写真の公表もせず、単独インタビューも断り、質問状をFAXでのみ受け付けていたという逸話で知られている。
2009年春夏コレクションを発表した08年を最後にマルジェラは同ブランドから引退。14年からはイギリス人デザイナーのジョン・ガリアーノがアーティスティック・ディレクターとして同ブランドを率いている。
そのマルジェラがブランドを去って10年がたった今年、ふたつの「マルタン・マルジェラ展」がパリで開催中だ。いずれの展覧会においてもアーティスティック・ディレクターをマルジェラ本人が手がけており、展示方法にも注目が集まっている。
ひとつめの展覧会は、ガリエラ宮モード美術館で18年3月3日から7月15日まで開催されている「MARGIELA GALLIERA 1989/2009」展。そのタイトルのとおり、1989年春夏コレクションから、引退するまでの2009年春夏コレクションまでを網羅し、ブランドの軌跡を追っている。
展示構成は年代順というオーソドックスなものだが、内容は100体ほどのルックや、アイコニックなタビシューズの歴史、ショーの映像や、マルジェラの製品で埋め尽くされた部屋のインスタレーションなど、さまざまな視点からその革新的なクリエイションを見ることができる。
ふたつめの展覧会は、17年にアントワープのモード美術館で開催され好評を呼んだ「MARGIELA: The Hermès Years」のパリ巡回展だ。リシュリュー通りのメゾン・マルジェラの店舗から徒歩圏内でもある装飾美術館にて開催されている。
97年から03年までの6年間、エルメスのプレタポルテコレクションを手がけていたマルジェラ。パリを代表する伝統的なメゾンであるエルメスに、前衛的なデザインを行うマルジェラという組み合わせは異色のものだった。自身のブランドとエルメスで提示したコレクションの違いと共通性を一望できるこの展覧会は、マルジェラというひとりのデザイナーから生まれるアウトプットの幅広さを知ることができる。
マルタン・マルジェラという孤高のデザイナーをめぐるふたつの展覧会。その内容の違いにも要注目だ。