今年で放送5年目を迎えるNHK Eテレの人気番組「びじゅチューン!」。有名美術作品をモチーフにした、アーティスト・井上涼によるオリジナリティあふれる歌とアニメーションが子供をはじめてとして幅広い層から支持を集めている。
そんな「びじゅチューン!」のなかから、東京国立博物館所蔵作品をテーマにした楽曲5つをもとにした展覧会「親と子のギャラリー トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」が東京国立博物館 本館特別4室・5室で開幕した。
井上が同館内を歩きながら見どころを紹介する新曲『トーハクトラベル』から展覧会は始まる。
最初の展示室は、葛飾北斎の《冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏》をモチーフにした「体感!ザパーンドプーン北斎」だ。ここではマイクに向かって来館者が叫ぶと、その声の大きさによって波の大きさが変化するというインタラクティブな仕掛けがされている。
また、この展示室内の置いてある椅子は波打つように振動しているほか、舟に座ると風が吹いてくるという仕掛けも。全身で北斎が描いたダイナミックな波を体験できる。
続いて「雨は愛すがどう描く?」では、歌川広重《名所江戸百景・大はしあたけの夕立》がどのように制作されたかを「広重の気持ちになって」体験することができる。
ここでは雨のスタンプを同作品のポストカードに押すことによって、どのように広重が雨を描いたかということを考えられるという企画。なお、展示室内には実際の版画の制作過程も展示されている。
続く「見返らなくてもほぼ美人」では、菱川師宣《見返り美人図》に自分がなりきるという展示だ。カメラの前に立つと、「見返り美人」が自分の動きにあわせて動く。どうして「見返り美人」は後ろを振り向いているのか? どのような角度で振り向けば、同じような角度になるのか? 「見返り美人」の気持ちになって動くことで、作品世界に入り込めるという仕掛けだ。
「洛中洛外グルメチェック」は屏風に描かれた400年前の京都の街の「おいしいもの」を探すという内容。ヒントとなる映像がモニターに映し出され、例えば「魚はどこに描かれているかな?」といった質問が次々に出される。じっくりと岩佐又兵衛《洛中洛外図屏風(舟木本)》を見ながら、当時の人々の生活に触れつつ、作品自体も楽しむことができる。
本展の展示作品のなかでももっとも衝撃的ともいえるだろう「顔パフォーマー麗子」は、自分の顔が岸田劉生《麗子微笑》にはめこめられるというもの。自分の顔をカメラで撮影すると、そこには麗子となった自分の顔が映し出される。麗子は何を考えていて微笑を浮かべているのか? 麗子の気持ちになって、吹き出し部分に文字を入れられる。
なお、制作した「麗子」は公開を可にすると、展示室内に表示される。ほかの人達がどのような「微笑」を浮かべているのかを見比べるのもおもしろいだろう。
なお、本館18室には《冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏》や《名所江戸百景・大はしあたけの夕立》、《麗子微笑》が展示されているほか、1室には《火焔型土器》が、9室には《能面 小面「出目満昆」焼印》といった「びじゅチューン!」に登場する作品の実物が展示されているので、展示期間に注意しながらあわせて鑑賞したい。
本展に際し、東京国立博物館の藤田教育普及室長は、「『びじゅチューン!』的な見方を博物館の展示に応用したらどうなるのか? と考えたのが本展企画の始まりです。ここを見たあとはぜひ本物の作品に出会ってください。本展が本物の作品に出会う入り口になればと思います」とコメント。
アーティストの井上涼は、「小さい子には『びじゅチューン!』から入って東博に来てもらって、実物を見られるという東博ならではの体験をしてもらいたいです。いろんな面から美術を体験していただける、意義ある展覧会であると思います」と語った。
子供と大人が一緒に楽しめる同展覧会。もちろん大人だけでも楽しむことができる、格好の美術入門展覧会となっている。