約1万3000年前に始まったとされる縄文時代は、約1万年ものあいだ続いた。氷期が終わり温暖で湿潤な気候に変わったことにより、山や森、川や海が現代と同じように整い、人々は多様な自然環境のなかで定住生活を行うようになる。そして狩猟や植物の採集を行うための石器や、容器として使用していた土器、そして装身具や、儀礼のための土偶や石棒など、様々な個性豊かな造形の道具がつくり出された。
本展では、そのような縄文時代の道具の「美しさ」に焦点を当て、その使用方法とともに造形に注目した展覧会だ。
第1章「暮らしの美」では、土器をはじめ、縄文時代の人々が暮らしのなかでつくり、使用してきたものが並ぶ。
縄文時代には容器として土器以外にも樹皮や植物の繊維を編んで籠や袋などを必要に応じた大きさやかたちでつくり、持ち運ばれていた。そのような暮らしの様子が見られるのが青森県の三内丸山遺跡から出土した《木製編籠 縄文ポシェット》(縄文時代中期)だ。中からはクルミの殻が発見されたという本作。幅約5mmの針葉樹の樹皮をもちいて、規則正しくつくられているその姿からは、当時の採取の様子を想像させられる。
続く第2章「美のうねり」では、縄文土器の造形の移り変わりを見ることができる。
土器の装飾には、「縄文」という名のとおり、縄や紐を使って土器に模様をほどこしていたほか、爪や指、貝、そして木や竹でつくられた棒やヘラなどの道具を使っていたと見られている。そのほかにも粘土を貼り付けることもあり、多様な表現が生まれた。本章では、土器それぞれの装飾の違いに着目しながら見比べることができる。
第3章「美の競演」では、日本列島だけではなくアジアのほかの国やヨーロッパの土器を紹介。約1万年前の各地の文化を垣間見られる。
そして本展のなかでも、もっとも注目されるのが第4章「縄文美の最たるもの」だろう。ここでは国宝に指定されている土偶と土器を見ることができる。縄文時代の遺跡はこれまでに9万件を超える数が確認されているが、数多の出土品のなかでも国宝はわずか6件。本展はその6件すべてが展示される初めての機会だ(《土偶 仮面の女神》と《土偶 縄文のビーナス》は7月31日からの展示)。
縄文土器の代名詞とも言える《火焔型土器》(新潟県笹山遺跡出土 縄文時代中期 十日町市博物館保管)は全面に力強い装飾がほどこされ、縄文人の造形の豊かさを伝えている。
ほかにも、北海道唯一の国宝である《土偶 中空土偶》(北海道 著保内野遺跡出土 縄文時代後期 函館市縄文文化交流センター保管)の細かい装飾や、座って祈る姿が表現された《土偶 合掌土偶》(青森県風張1遺跡出土 八戸市埋蔵文化センター是川縄文館保管)、容姿端麗と評される《土偶 縄文の女神》(山形県西ノ前遺跡出土 縄文時代中期 山形県立博物館保管)など、それぞれまったく異なる個性をもつ出土品の造形美を楽しめる。
続く第5章「祈りの美、祈りの形」でも、教科書などでおなじみのかたちに出会える。
日本を代表する土偶造形と言われる《ハート形土偶》(群馬県東吾妻町郷原出土 縄文時代後期)や、もっとも有名な土偶であろう《遮光器土偶》(青森県つがる市木造亀ヶ岡出土 縄文時代晩期 東京国立博物館蔵)は、そのユーモラスな造形を楽しむとともに、祈りのかたちとしての役割を担ったその歴史についても知ることができる。
土偶は女性をかたどっているが、いっぽうで男性を象徴する造形として石棒が縄文時代前期後半に出現した。本章では土偶や石棒、土面、鼻や耳、口といった仮面のパーツといった人間を模した出土品を紹介。そして人間だけではなく鳥や猪、熊といった動物の土製品も多く展示されている。その造形の幅広さと、海や山へ豊穣を祈り、自然に畏敬の念をあらわしていた縄文人たちの姿を見られる。
最終章である第6章「新たにつむがれる美」では、柳宗悦や川端康成、濱田庄司ら作家たちにとっての縄文に注目。そんな本章の最後を飾るのは、縄文土器に対して「思わず叫びたくなる凄み」と評した岡本太郎が愛した品々だ。岡本が縄文土器に出会ったのは東京国立博物館。そんな岡本が見た縄文土器と岡本が撮影した写真を同時に展示。本展ではここだけが撮影可となっており、縄文土器を撮影した岡本の視点に迫ることができる。
日本列島各地の多様な縄文の優品約200点が集結した本展。それぞれのかたちを見ながら、1万年前の人々の生活を想像できるほか、その造形美を存分に楽しめる展覧会だ。