アラビア語で「サウード(家)によるアラブ(の王国)」という意味を持つ、イスラーム世界の中心的存在、サウジアラビア。「道」をひとつのキーワードとする本展では、サウジアラビア王国の400件以上の貴重な文化財が日本で初めて公開される。
展覧会は5部構成で、「第1章 人類、アジアへの道」では石器を中心にとしたアラビアの先史時代を、「第2章 文明に出会う道」では、海上交易で繁栄したアラビア湾の出土品を紹介。そして、紀元前1000年以降に香料交易で賑わったオアシス都市の出土品で構成される「第3章 香料の道」、マッカ、マディーナという2大聖地を有するアラビア半島への巡礼がテーマの「第4章 巡礼の道」、イスラーム美術の装飾が施された工芸品を数多く展示する「第5章 王国への道」からなる。
「アラビア半島の歴史の始まり=文字による記録の始まり」と話すのは、本展の担当研究員のひとり、小野塚拓造。アラビア半島が初めて歴史文書に登場するのが紀元前2600年頃だが、第2章では当時、大きな都市が点在したメソポタミア(現在のイラク)内でもひときわ繁栄を見せていたリムリン(現在のアラビア湾)の出土品が集まる。
祈る人物の姿がモチーフの「祈る男」はこの時代の有名な出土品のひとつだ。通常2〜30センチとされる「祈る男」の約3倍のスケールが特徴的な本展の「祈る男」は、異質で力強い印象を放っている。
アラビアといえば、半島の面積の大部分を占める砂漠を悠然と歩くラクダも代名詞のひとつだろう。第3章では、ヒトコブラクダが荷物運びのために家畜化されるようになり、アラビア半島の道が急激に発展した紀元前1000年以降にフォーカス。石碑、巨像などの出土品が並び、アラビア半島が交易の中心であったことを物語る。
この時代でもうひとつ重要なのが「香料」だ。本展の担当研究員のひとり、白井克也は「防腐剤や殺菌、お香を炊くために重宝された香料はアラビア半島が主な産地。そのため、メソポタミア、エジプトなどの人たちがアラビア半島との交易を重要視していたんです」として、3章を「香料の道」と名付けた経緯について話す。この章では、CGで復元された当時の都市の姿見ることもできる。
古代が終わり、イスラム時代以降をたどる4章では、巡礼路とともに発達した新たな交易ネットワークの拠点「ラバザ」の出土品、アラビア文字が刻まれた墓跡などから、当時のイスラム教徒の文化と信仰にせまる。ゲストキュレーターの徳永里砂は、「イスラム陶器は見逃せない出土品のひとつ」と話す。
「中国を含む様々な地域と交流することで独自に発達したイスラム陶器は、陶器に白い釉をかけ、その上にカラフルな模様が描かれるスタイルが代表的。当時の最先端の科学技術が可能にした色鮮やかな陶器は、広い地域で人気を博していました」。
そのほかにも聖地メッカで17世紀にカァバ神殿の扉として使われていた実際の扉や16世紀のコーラン写本など、間近で見ることのない貴重な作品、資料の数々も集まる本展。先史時代から近現代の工芸が集まる本展を通して、知られざる歴史を楽しみたい。