田名網敬一の遺作4部作。『Quo Psyche』『BLINK』『CRASH』『SPARK』が誘う田名網ワールド

今年8月9日にこの世を去った田名網敬一。その遺作とも言える書籍4部作はもうチェックしただろうか? All photo ©Keiichi Tanaami/afumi inc.

『Quo Psyche』

 今年8月9日に惜しまれつつこの世を去った田名網敬一(享年88)。その遺作とも言える作品集『Quo Psyche』『BLINK』『CRASH』『SPARK』が、アーティストブック出版レーベル「?/ˈsɪmbl/」より発売中だ。

 「日本ポップアートの第一人者」「実験アニメの開拓者」「グラフィックデザインをアートに昇華させた偉人」など、様々な枕詞で彩られる田名網。国立新美術館で開催されている世界初の大規模個展「田名網敬一 記憶の冒険」は、その半世紀以上にわたる創作活動の全貌に迫るもので、膨大な作品が圧倒的な熱量をもって並ぶ。そのボリュームゆえに、田名網が何を表現するべく作品に取り組んできたのかを理解することは、そう簡単ではない。そのときに助けとなるのが、4部作『Quo Psyche』『BLINK』『CRASH』『SPARK』だ。

 『BLINK』『CRASH』『SPARK』の三部作は、田名網ワールドをカテゴリごとにまとめたもの。

 『BLINK』は、戦闘機やピンナップガール、金魚、橋、波、芸者、アメコミヒーローなど、ドローイング作品をまとめたもの。田名網はなぜ全キャリアを通して、決して筆を置かずにドローイング作品を産みだし続けたのか。その理由がこの1冊から読み取れるだろう。

『BLINK』
『BLINK』

 『CRASH』は、田名網作品の真髄とも言えるコラージュにフォーカスしたものだ。相容れるはずのない異なる事象を融合して独自の世界を築き上げた田名網。88年という人生で知覚した雑誌やマンガなど様々なメディアのディテールを中心に、自身が生み出したキャラクターも無作為に切り貼りし融合させた、田名網の人生の記憶が集結したようなコラージュ集だ。

『CRASH』
『CRASH』

 『SPARK』は、グラフィックデザインがアートとなった田名網作品の実態を、年代順に網羅することで、移りゆく作品世界の変化と、ブラッシュアップされ続ける創作意欲をも垣間見れるプリント・版画集。複製であることすらオリジナリティの一部にしてきた田名網が、いかにして印刷技術に重きを置きながら創造性を追求してきたのかを明らかにするものだ。

『SPARK』
『SPARK』

 いっぽう、『Quo Psyche』は、上記三部作でフォーカスされたカテゴリーをすべて取り込んだオムニバス的な1冊。無数のキャラクターがコラージュされ生みだされた大作キャンバス作品を中心に、立体物、ドローイング、展示風景、アニメーションの原画、制作工程を垣間見ることのできる指定稿、自身のポートレートなど、田名網ワールドを彩る多種多様な作品群がカオスとなって迫ってくるA3変形、250ページの大型本だ。

 見どころは16面にもおよぶ大観音開きや、ページ上に突如現れる切り抜き、縦横無尽にレイアウトされた判型の異なるページ群、朝吹真理子による書き下ろし小説『きんぎょのひるね』、拡げるとポスターとなる折り畳まれた表紙など。田名網作品の世界観を凝縮したように、混沌世界へと誘うものとなっている。1200部限定のアートピースのような1冊だ。

『Quo Psyche』
『Quo Psyche』表紙展開(表)
『Quo Psyche』
『Quo Psyche』

 展覧会「田名網敬一 記憶の冒険」のように、この4部作には田名網ワールドがすべて詰め込まれており、ページをめくるたびにその世界へと引き込まれていくだろう。田名網が最期に心血を注いだこの4部作はまさに「表現の書」であり、永久保存版だ。

編集部

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