デジタルとフィジカル、双方の可能性にフォーカス。マックス・ジーデントップがパルコと提案する世界の楽しみ方とは?

2024年度、パルコが提案する「Believe it or not !」のメッセージ。AIや拡張現実によって曖昧になっていく世界をどのようにとらえ、楽しむことができるか? アートワークを務めた、マックス・ジーデントップに話を聞いた。

聞き手=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

パルコ2024年度キャンペーン「Believe it or not !」

 株式会社パルコ(以下、パルコ)の2024年度キャンペーンが発表された。「Believe it or not !」をテーマに、生成AIや拡張現実によって融合する現実と非現実を表現。デジタルとフィジカル、双方の世界を楽しもうというメッセージを発信している。今回公開されたのは「PARCO SMART HOME」をテーマとしたSPRINGキャンペーン。今後はSUMMER、AUTUMN、WINTER、と季節ごとの公開が予定されている。

 アートワークを務めるのは、リスボンを拠点に活動するドイツ系ナミビア人アーティストのマックス・ジーデントップ(Max Siedentopf)だ。写真や映像、彫刻、クリエイティブディレクションなど多岐にわたって活躍しており、その幅広い表現手法から、ユニークでハッピーな世界観を生み出してきた。

 そんなマックスに、自身のアートワークについてやアイデアの生み出し方、そして今回日本における初のコラボレーションとなるパルコのキャンペーンについて、メールインタビューを実施し話を聞いた。

「Believe it or not !」
「Believe it or not !」

──マックスさんは、日頃どのような価値観のなかでアートワークを制作されていますか。

マックス・ジーデントップ(以下、マックス) 何かをつくることはは、予期せぬイマジネーションとのデリケートなダンスであり、不条理とのタンゴのようなものです。人間の経験のなかにある「矛盾」という複雑なダンスを映し出すカーニバルの鏡を想像してみてください。その作品からは、ハッピーでユーモラスなすがたで人々を魅了する、不思議な魅力が放たれていると思います。

──クリエイティブを制作する際のアイデア源はどこにあるのでしょうか。また、日々影響を受けている人やクリエイティブ、物事などを教えてください。

マックス インスピレーションは私の周りにある、奇妙で美しい世界から生まれています。混沌や偽善、そして予測不可能な生命そのものが、つねに私のミューズです。普通でありふれたもの対してとても興味があり、そのなかから非凡で風変わりなものを見つけ出そうとしています。

 よくインスパイアを受けている対象といえば、ほかのクリエイターを超えて、自分とはまったく異なることをしている人々でしょうか。それは科学者だったり、スポーツ選手、子供、政治家、または情熱的なアマチュアの愛好者など、多岐にわたります。

撮影の様子

──AIや拡張現実の発達を目の当たりにするなかで、ポジティブとネガティブの両側面が浮き彫りになりつつあります。今回のパルコの広告「Believe it or not !」を受けて、それらについてどのように考えられましたか。

マックス AIおよび拡張現実の進展に関していうと、「Believe it or not!」というテーマは、とてもぴったりだと思います。これらのテクノロジーには二面性があり、信じられないような可能性をもたらすいっぽうで、社会への影響に対する懸念も生じています。ポジティブな面は刺激的であることで、それらは創造性と表現の限界を押し広げる革新的なものだと言えるでしょう。しかし、プライバシーの問題や、人と人との真のつながりが失われる可能性といったマイナス面も無視できません。潜在的な欠点に気を配りながら、ポジティブな面を受け入れるためには、絶妙なバランスが必要だと思います。

──デジタルテクノロジーの発展から人々の生活は豊かになるとともに、フィジカル・五感をメインとしたアクティビティが恋しくなる時があると感じます。このような新たな時代において「人間らしさ」はどこにあると感じますか。

マックス テクノロジーが私たちの生活を豊かにするこのデジタル時代において、私たちは身体感覚を刺激する体験への憧れがあります。そのようななかで、私は、「人間らしさ」とはデジタルとフィジカルとのバランスにあると信じています。スクリーンから離れ、具体的かつ感覚的な活動に没頭する瞬間にこそ、私たちは人間の本質や手触り・香りといった、「リアルライフ」とつながることができるのです。このようなメディアを介さない出会いのなかでこそ、私たちは人間であることの詩を再発見するのであり、デジタルの眩しさと原始的な感覚の地に足のついた歩調とのあいだでバランスをとっていくのだと思います。

撮影の様子

──パルコの広告は、その時代やそこに生きる人々の心のうちを表現するようなクリエイティブが特徴であり、国内における流行の最先端でもあると考えます。今回タッグを組んでみていかがでしたか。

マックス パルコのクリエイティブな宇宙に飛び込むことは、現代文化の潮流を俯瞰することができる、エキサイティングで魅惑的な旅でした。過去そして現在の広告も、時代精神をとらえる計測器のようなものです。アートは、進化し続ける時代精神との共生関係にあります。視覚的な解説となり、会話を巻き起こし、境界線を押し広げ、ボタンを押す、といった役割を担います。そういう意味で、この旅はたんなるビジュアル制作のためのものではなく、文化的な会話であり、思考を刺激し、知覚の境界を押し広げるものでした。パルコのような広告のあり方が、今後の社会においてさらに必要になってくると思います。

──最後に、広告を見るすべての人々にメッセージをお願いいたします。

マックス 事実とフィクション、現実とイマジネーションがますます混ざり合っている昨今。これを自分だけの素晴らしい現実を創造するチャンスととらえてみてください。世界はあなた自身の想像力次第です。現代において、何が現実で何がそうではないかを見極めることは難しくなっており、双方の境界線は曖昧に、そしてほとんど一体化してしまうでしょう。

 今回のキャンペーンを通じて、私たちは示唆に富んだ旅に出かけ、この時代における真実の本質について本質的な疑問を投げかけます。日常と非日常が交錯し、現実と非現実の区別が楽しい謎となる。この魅力的で新しい世界をパルコと一緒に探検しましょう。

 「Believe it or not !」は、驚くべき新たな世界へと我々を誘います。イマジネーションに限界はなく、唯一の限界があるとすれば、私たち自身の創造性だけでしょうか。結局、現実の始まりと終わりは誰にもわからないんです。だったら、どちらのバージョンも楽しんでみましょう。

マックス・ジーデントップ

編集部

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