会場外に広がる動き
ART SGの会場内外では、フェアを軸としながらも、それぞれ異なる文脈をもつ展覧会やプログラムが同時多発的に展開された。
例えば、イェン・アンド・アラン・ロー財団によるプロジェクトスペース「キム・アソシエーション」では、ベルリンと中国・武夷を拠点に活動する作家、シュアン・リーの個展「Alliance」を開催。本展のために制作されたサイトスペシフィックな新作映像インスタレーションが発表され、フェアの賑わいとは異なる時間感覚のなかで、個人の身体や記憶、関係性をめぐる問いが静かに立ち上がった。

また、創設から35年を迎える香港の老舗ギャラリー「クワイ・フォン・ヒン」は、初の海外拠点をシンガポールに開設。クロード・モネの代表的作品を軸に、ザオ・ウーキーやチュー・テーチュンといった近現代美術の作家を対話的に紹介する展示を行い、東アジア近現代美術の歴史的厚みをあらためて提示した。

マーケットの側面でも、ART SGを取り巻く動きは活発だ。1月25日にはサザビーズが、シンガポール・アート・ウィークにあわせてモダン&コンテンポラリー・アートのライブオークションを実施する。これに先立ち、1月21日から24日まで、ザ・エディション・ホテルにてハイライト作品の一般公開が行われている。
サザビーズは2022年、15年ぶりにシンガポールで同カテゴリーのオークションを再開した。過去数年を振り返り、同社東南アジア統括マネージング・ディレクターのジャスミン・プラセティオは次のように語る。「この地域のコレクターには、自国・自地域のアーティストを支援したいという明確な情熱がある。それはいまも変わらないが、同時にここ数年で、国際的なアーティストへの関心や好奇心も確実に高まっている」。
さらに彼女は、「アーティストの成功は、まず国内での評価と支持から始まる」と前置きしたうえで、「今日のシンガポールは、これまで以上に多様な声と人口構成を抱えており、その多様性こそが、今後の文化的交流のあり方をかたちづくっていく」と指摘する。

シンガポールのアートエコシステムを語るうえで欠かせない存在が、版画と紙を軸に国際的な活動を続けてきたSTPIである。同ギャラリーは今年、初の試みとして「Symposium 2026: The Politics of Print」(1月23〜24日)を開催。国際的なギャラリー、アーティスト、キュレーター、研究者らと協働し、グループ展とトークを組み合わせたプログラムを通じて、現代美術における版画表現の現在地を多角的に検証した。
STPIのエグゼクティブ・ディレクターであるエミ・ユーは、シンガポールのアートシーンについて次のように語る。「アートの発展は一夜にして起こるものではないし、あまりにも速く進めば、同じ速さで失われてしまう。大切なのは、時間をかけて、正しく、堅固な基盤を築いていくこと。私たちには、そのための時間がある」。
さらに彼女は、「文化や遺産を保存し、アートを発展させていくためには、誰かひとりではなく、関わるすべての人が役割を果たし、継続的にともに築いていく必要がある。協働と開放性、そしてコミュニティづくりが鍵だ」と続けた。

ART SGを中心に展開されたこれらの動きは、シンガポールのアートシーンの成熟過程を映し出している。フェア、オークション、ギャラリー、非営利機関がそれぞれ異なる時間軸と役割を担いながら重なり合うことで、この都市は、ゆっくりとではあるが、確実に独自のリズムを獲得しつつある。



















