「ART SG 2026」開幕レポート。拡張と調整のあいだで形づくられるシンガポールの現在地

第4回目を迎えたART SGが、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ内サンズ・エキスポ&コンベンション・センターで開催中。同フェアを軸に、シンガポールのアートシーンの現在地を読み解く。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

ART SG 2026の会場風景

 第4回目となるART SGが、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ内サンズ・エキスポ&コンベンション・センターにて開幕した。

S.E.A. Focusと同時開催、調整期に入ったART SG

 今年は、これまでシンガポール美術館周辺の会場で開催されてきたアートフェア「S.E.A. Focus」が、初めてART SGと同一会場で実施された。S.E.A. Focusはシンガポール国家芸術評議会(National Arts Council、以下NAC)のコミッションによる企画で、今回はART SGとのコ・オーガナイズというかたちをとる。両フェアを合わせ、30以上の国と地域から100を超えるギャラリーが参加している。

S.E.A. Focus

 ART SGは2023年1月の初開催時、160を超えるギャラリーが集結し、ガゴシアン、ペース、デイヴィッド・ツヴィルナー、ホワイト・キューブ、セイディ・コールHQといった国際的なメガギャラリーやブルーチップが名を連ねたことで大きな注目を集めた。しかし第2回以降、出展ギャラリー数はおおむね100〜110軒前後で推移しており、初回に参加した多くのブルーチップ・ギャラリーはその後、継続出展していない。

S.E.A. Focusの会場風景

 今年の出展ギャラリーを見ると、大手ギャラリーはホワイト・キューブ、タデウス・ロパックなど少数にとどまる。日本からの参加も、シンガポールに拠点を構えるオオタファインアーツをはじめ、Kaikai Kiki Gallery、A Lighthouse called Kanata、YUKIKOMIZUTANIと、比較的限定的な顔ぶれとなった。

 いっぽう、シンガポール政府による文化芸術分野への支援は引き続き厚い。ART SGの開催期間にあわせ、NACは「シンガポール・アート・ウィーク」(1月22日〜31日)を実施し、市内各所で100を超える関連プログラムが展開される。また、同じくNACのコミッションのもと、シンガポール美術館が主催する「シンガポール・ビエンナーレ2025」も現在開催中で、会期は3月29日まで続く。

ART SG 2026の会場風景

 市場データを見ると、シンガポールの存在感は年々高まっている。「Art Basel & UBS Survey of Global Collecting 2025」によれば、シンガポールは現在、世界で5番目に大きな美術品・骨董品の輸入国となり、輸入額は前年比74パーセント増の約17億ドルに達した(日本は世界第6位で、同期間に約11億ドルへと倍増している)。

 しかしそのいっぽうで、ART SGについては「売上が伸び悩んでいる」との評価が業界内で語られてきた。これが、初回以降に参加を見送るギャラリーが増えた一因とも指摘されている。

ART SG 2026の会場風景

 そうした状況のなか、今年のART SG初日には、いくつかの具体的なセールス報告も聞かれた。タデウス・ロパックは、ラキブ・ショーによるアクリル、エナメル、グリッター、ラインストーンを用いた作品(47万5000ポンド)をはじめ、李康昭、ザディ・シャ、オリバー・ビアらの作品を複数点成約させた(価格帯はいずれも10万ドル以下)。

 ホワイト・キューブは、マイケル・アーミテージのブロンズ作品(28万ドル)、マルグリット・ユモーのミクストメディア作品(22万5000ポンド)、野又穫の絵画2点(各4万2000ドル〜4万5000ドル)などを販売。オオタファインアーツは3000ドル〜4万8000ドルの価格帯で構成された作品群のうち、初日に3〜4点が成約したという。

ART SG 2026の会場風景より、ホワイト・キューブのブース

 シンガポールおよび東京を拠点に活動するコレクター/キュレーターのウォーレン・ウィーは、現地市場の特性について次のように指摘する。「シンガポールでは、多くの人が不動産投資に重きを置いている。アートに関しては、理解を深めるための教育がまだ必要だと思う」。

 ウィーは今年のシンガポール・アート・ウィーク期間中、歴史的建造物であるティオン・バル空襲シェルターにて、ニューメディア/デジタル・アートに焦点を当てた展覧会も企画した。彼は、ART SGのようなフェアが果たす役割を肯定的に捉え、「こうしたフェアが継続されることで露出が増え、若い世代のコレクターが育っていく。アートを資産として捉える視点だけでなく、文化としての理解や評価も、時間をかけて高まっていくはずだ」と語った。

編集部