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初回のフリーズ・ソウルで感じられた韓国アートマーケットの熱気

ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスで展開しているフリーズ・アートフェア。そのアジアにおける初のフェア、フリーズ・ソウルが9月2日に韓国・ソウルの複合施設COEXで開幕した。その様子を関係者の言葉とともにお伝えする。

会場風景より

 今年のアジアのアートマーケットにおいてもっとも待望されたイベントと言えるのは、9月2日に韓国・ソウルの複合施設COEXで開幕した第1回目の「フリーズ・ソウル」だろう。

 フリーズのアジアにおける初の試みとなる初回のフリーズ・ソウルには世界20ヶ国から110以上のギャラリーが参加しており、そのうち約30パーセントはアジアのギャラリーとなっている。会場の1階では、韓国ギャラリー協会が主催するアートフェア「KIAF」も同時に開催されており、フェア開幕前からソウル市内のギャラリーや美術館による様々な展覧会やイベントが含まれるフリーズ・ウィークも展開されている。

会場風景より

 フリーズ・ソウルのディレクターであるパトリック・リーは開幕に先立ち、「これは、映画、音楽、美術館、デザイン、ファッション、アートなどの文化を満喫する1週間だ。この1週間を通して、ソウルが伝えているものを体験していただければ」と話している。

パトリック・リー

 昨年10月にソウルに新しいスペースをオープンしたタデウス・ロパック・ギャラリーのブースでは、ゲオルグ・バゼリッツが1969年に制作した絵画《Der Hochstein》をはじめ、アレックス・カッツ、ロバート・ラウシェンバーグ、アントニー・ゴームリーなどの作品を展示。初日の午後5時までには、トム・サックスの作品4点(5万ドル〜30万ドル)や韓国人アーティストであるイ・ブルの平面作品《Perdu CXL》(19万ドル)、アルヴァロ・バーリントン、マルタ・ユングヴィルトなどの作品が、韓国、中国、シンガポールなど主にアジアのコレクターによって購入されたという。

会場風景より、タデウス・ロパック・ギャラリーのブース。左はゲオルグ・バゼリッツ《Der Hochstein》(1969)

 今年8月末にソウルにおける2つ目の拠点をオープンしたギャラリー・ペロタンは、フリーズ・ソウルとKIAFに同時に出展。フリーズでは、バハマ生まれのアーティストであるタバレス・ストラカンの個展を行い、KIAFでは、朴栖甫(パク・ソボ)、ベルナール・フリズ、タカノ綾など同ギャラリーの取り扱い作家13名の作品をグループ展で紹介している。

 ストラカンの作品は初日にすべて売約済みだったという。ギャラリー・オーナーのエマニュエル・ペロタンは、「新しいギャラリーをオープンし、新たなコミットメントができることに満足しているし、誇りに思っている。私のチームは素晴らしい仕事をしてくれていて、とても嬉しくて幸せだ」とコメントしている。

会場風景より、ギャラリー・ペロタンのブース

 今年ソウルでのスペースを拡張し、フェア会期中に新たな屋外ガーデンなどを披露したペース・ギャラリーは、ゲルハルト・リヒターやアグネス・マーティン、マシュー・デイ・ジャクソン、アダム・ペンドルトンなどの作品を紹介。初日には価格非公表の奈良美智の彫刻作品に加え、アダム・ペンドルトンの絵画が47万5000ドル、マシュー・デイ・ジャクソンの新作絵画2点が17万5000ドルと15万ドル、ブラジル人アーティスト、マリナ・ペレス・シマオの絵画が12万5000ドルで取引。いずれも韓国の美術館に購入されており、好調な売り上げが報告されている。

 同ギャラリーのパートナー兼アジア総裁・冷林(レン・リン)は、「初回のフリーズ・ソウルでは、多くの国際的なギャラリーが真剣に取り組んでおり、非常に好評を博している」と述べている。

会場風景より、ペース・ギャラリーのブース

 ハウザー&ワースでは、初日に280万ドルのジョージ・コンドの新作絵画《Red Portrait Composition》や、180万ドルのマーク・ブラッドフォードの《Overpass》、55万ドルのラッシード・ジョンソンの《Surrender Painting "No Worries"》など、約15点の作品を販売。ギャラリーのアジア・マネージング・パートナーであるエレイン・クオックは、「今回のフェアは、アジアでコロナ以降初めて、海外のギャラリーやコレクターが隔離されずに参加できるフェアなので、市場全体にとって非常に重要なテストだ」としつつ、韓国のコレクターや市場について次のように話している。

 「韓国のコレクターは、以前は中国や日本のコレクターの影に隠れていたかもしれない。しかし、近年はアジアのアートマーケットがじつは非常に多様であることがわかり、主要マーケットだけでなく、新しい発見がたくさんあるのだと思う」。

会場風景より、ハウザー&ワースのブース。壁面の作品はジョージ・コンド《Red Portrait Composition》

 韓国の現代アートシーンを牽引するクジェ・ギャラリーは、初日に朴栖甫(パク・ソボ)の作品を49万~55万ドル、河鍾賢(ハ・チョンヒュン)の作品を35万~40万ドル、ヤン・ヘギュの作品を28万~33万ユーロで販売。同ギャラリーのデピュティ・ディレクターであるクォン・ジョルヒは、「すでに私たちのプログラムを熟知している海外の顧客が多く訪れている。私たちにとっても、韓国のアーティストを紹介することが評価していただけたのは、本当に嬉しいことだった」とコメントしている。

会場風景より、クジェ・ギャラリーのブース

 また、初回のフリーズ・ソウルにはタカ・イシイギャラリー、小山登美夫ギャラリー、ANOMALY、MAHO KUBOTA GALLERY、MISAKO & ROSEN、TARO NASU、Take Ninagawaなど、約10のギャラリーが出展している。その感想や期待について複数の出展ギャラリーに聞くと、次のような返答が得られた。

 例えば小山登美夫は、「フリーズの会期中、様々なギャラリーや美術館は夜遅くまでオープンし、人々が交流できるようにしている。また、韓国の大手会社は現代美術の作品を率先してコレクションしており、国が現代美術を盛り上げているのは、日本と全然違う」と話している。

会場風景より、小山登美夫ギャラリーのブース

 ヤン・ヴォーや大竹伸朗などを紹介するTake Ninagawaの代表・蜷川敦子は、「アジア圏のなかでひとつの重要なアートイベントが生まれたのでサポートしたいし、一緒につくっていかなければいけないと思っている」としつつ、「(マーケット)がエキサイトしている感じはあるものの、現代アートの情報量は少なく、このフェアでとにかく情報収集しようという印象を受ける」と分析する。

会場風景より、Take Ninagawaのブース

 ミカ・タジマ、サイモン・フジワラ、池田亮司の3人展を行っているTARO NASUのディレクター・細井眞子は、「私たちにとっては『アート・バーゼル香港』を除くと久しぶりのアジアのフェア参加なので、若干の不安はあったが、初回は面白いことが起こるのでそれを期待して参加した。実際、インスティチューションを含めて新しい購買者層に会うことができたし、フェアに行かないと味あわえないアートマーケットのダイナミズムや、人と交流することの重要性もよく感じられた」と振り返る。

会場風景より、TARO NASUのブース

 MISAKO & ROSENでは、南川史門、マーガレット・リー、廣直高の作品を展示。同ギャラリーの共同設立者ジェフリー・ローゼンは、「私たちは、フリーズや地元の鑑賞者とつながる可能性を信じて、参加してみようと思った。韓国のアートマーケットについて様々なメディアによる大宣伝もあると思うが、地元と強い絆で結ばれているわけではないので、韓国の方たちと真のつながりをつくることが大事だ」と語っている。

会場風景より、MISAKO & ROSENのブース

 スターリング・ルビーの個展を行って即日に完売したベルギーのグザヴィエ・ヒュフケンス・ギャラリーや、初日に16点以上の作品を販売したガゴシアンなどのブルーチップギャラリーがあるいっぽうで、作品販売に苦戦していた中小ギャラリーもある。また、作品の取引額から見ると100万ドル以上の作品は多いと言えず、ロンドンやニューヨークでのフリーズとの格差が感じられる。

会場風景より、グザヴィエ・ヒュフケンス・ギャラリーのブース

 取材した海外のギャラリーは、韓国人コレクターが「ソフィスティケーテッド」であることをよく語るが、同時に慎重で軽々しくしないことも特徴づけられるという。しかし、フェア会場や市内の関連イベントで感じられた、地元のコレクターやアートファン、とくに若い世代の人たちがアートに対する熱意は間違いない。

 フェアディレクターのパトリック・リーは、「今後はもっとサステイナブルなフェアにしたい」と話す。初回の開催で圧倒的な注目を浴び、良いスタートを切ったフリーズ・ソウル。その今後の展開にも注目したい。

会場風景より

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