オークションの冒頭を飾ったのは、ハラ ミュージアム アークで現在個展が開催中であり、8月10日からの原美術館での個展も控える加藤泉の作品3点だった。なかでも油彩の作品《Untitled》(2006)は、エスティメイト(予想落札価格)が20万〜30万円だったが、入札希望者が競った結果、最終的には230万円とエスティメイトを大幅に上回る価格で競り落とされた。会場からは拍手が起こり、加藤泉の人気をあらためて感じさせる結果となった。
梅沢和木の《Lavos》(2009)は今回のオークションカタログの表紙にも採用された作品だ。本作は2009年にトーキョーワンダーウォール賞を受賞したもので、梅沢のキャリアのなかでも重要な位置づけとなる作品だ。エスティメイトは60万〜90万円だったが、活発な競り合いの末に460万円で落札され、加藤泉に続き会場は大きな盛りあがりをみせた。
3月に東京国際フォーラムで開催されたアートフェア東京2019の「Crossing」のブースでも展示され、注目を集めていた山口歴の作品も出品された。山口の作品がオークションに出品されるのは今回が初めということだったが、《RD no.6》(2018)がエスティメイト70万〜100万円に対して97万円、《DNERSHED IDENTITY》(2014)がエスティメイト10万〜15万円に対して46万円で落札され、山口に対する市場の期待の高さがうかがえた。
ここ2年ほど、国内のオークションでエスティメイトを大幅に上回る落札額を記録しているKYNEとロッカクアヤコは、今回も高い価格で競り落とされた。KYNEの大型のシルクスクリーンの作品は、エスティメイト20万〜30万円に対して105万円で落札。ロッカクアヤコも縦が190cmを超える大型のキャンバスの作品が、エスティメイト500万〜1000万円に対して1650万円で落札となり、両者の継続的な人気を再確認させられた。
戦後の日本美術の作品も数多くの出品されていた。中西夏之、赤瀬川原平とともに「ハイレッド・センター」を結成していたことでも知られる高松次郎の《鍵の影 No.204》(1968)や、実験工房の中核メンバーであり1950年代の日本美術を語るうえで避けては通れない福島秀子の《作品》(1979)など、日本美術史における重要な作品も落札されている。
海外作家ではKAWSの高い人気がうかがえた。アクリルのペイントがビニールのケースに入った作品が3点出品され、いずれも1000万円を超える価格で落札された。KAWSはディオールとコラボレーションしたぬいぐるみも出品されており、こちらは215万円で競り落とされて注目を集めていた。
今回のオークションで最高額をつけたのは、藤田嗣治がメキシコ滞在中に描いた《狐を売る男》(1933)。希望の作品に対して入札可能最高額をあらかじめ提示し、主催者に落札を委託する「書面入札」を選択した参加者が逃げ切り、4600万円で落札された。
落札価格に取引手数料15パーセントを加えた最終的な取引総額は5億8478万6500円となった。会場には、SBIアートオークションがターゲットとして重視しているという、30〜40代と思わしきアートコレクターの姿も多く、投資よりも純粋にアートを楽しもうという雰囲気が漂っていた。作品の質、落札価格ともに充実しており、今後の日本のセカンダリーマーケットの盛り上がりが期待できそうなオークションであった。