NEWS / REPORT - 2019.7.11

加藤泉の全貌。ハラ ミュージアム アークで加藤泉の個展「LIKE A ROLLING SNOWBALL」を見る

ミステリアスで力強い「生命体」の表現を特徴とする加藤泉。その個展「LIKE A ROLLING SNOWBALL」が、群馬・伊香保のハラ ミュージアム アークで5ヶ月にわたって開催される。加藤の作家人生をほぼ網羅する本展の見どころとは?

展示風景より、《Untitled》(2014)

 昨年、北京のレッドブリック美術館で日本人として初の個展を開催し、アジア圏から大きな注目を集めた加藤泉。今年はその個展が、ハラ ミュージアム アーク原美術館で同時期に開催される。この両館で同時期にひとりのアーティストの個展が開催されるのは、今回が初めてとなる。

 加藤泉は1969年生まれ。武蔵野美術大学造形学部油絵学科在籍中の90年代半ばから絵画作品を発表し、2000年代からは木彫も制作。07年にヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展へ招聘されたことをきっかけに国際的な評価されはじめ、その人気は上昇し続けている。

加藤泉

 そしてこの度、ふたつの個展のうち、ハラ ミュージアム アークの「LIKE A ROLLING SNOWBALL」が幕を開けた。本展では、1994年から2019年のあいだに制作された143点もの作品が、3つのギャラリーと特別展示室「觀海庵(かんかいあん)」の4つで展示される。

 会場に並ぶのは、リトグラフからペインティング、あるいはソフトビニール、石、布、木を使った立体まで、加藤らしい様々な素材でつくられた作品群。まさに加藤の作家人生を網羅した内容となっている。

ギャラリーBの展示風景より、中央は《無題》(2006)

 ハラ ミュージアム アーク館長の青野和子は本展について「デビューから四半世紀を経たいまがタイミングとしてふさわしい」と語る。「もともとは原美術館でやりましょうと始まった企画。ハラ ミュージアム アークでも展開できないかと加藤に相談したところ、(所属の)ペロタンの協力もあって実現しました」。

 加藤は原美術館とハラ ミュージアム アークについて「国内外を含めて、好きな美術館のひとつ。いつか自分だけの個展やりたいと思っていました」と喜びをにじませた。25年という作家人生について「25年やってこんなもんかとも思うし、よく飽きずにやってきたんだなとも思います。展覧会のタイトルには25年生き延びてきて、これからも人として、アーティストとして生き延びていきたいという思いを込めました」と話す。そのステイトメントは、会場で確認してほしい。

ギャラリーAの展示風景より、《無題》(2012)

 では実際の会場構成を見ていこう。加藤は展覧会を行う際、展示構成の計画は立てないという。まずキーとなる作品を設置し、それを軸に1点ずつインストールしていく。ギャラリーAでは、そのキーとなるのは5体の巨大な木彫がセットになった《無題》(2014)だ。「比較的メディアなどでの露出度の高い作品を集めた」というこの部屋。最近になって始まったファブリックの作品が見られるのもここだ。

ギャラリーAの展示風景より、《無題》(2014)
ギャラリーAの展示風景より、《無題》(2008)

 ギャラリーBとCには、平面作品が並ぶ。自らをペインターと称し、「絵を描くように展示する」という加藤。94年から25年間にわたって描かれてきたその変遷を、この2つの部屋で堪能したい。

ギャラリーCの展示風景より、右は本展出品作品のなかでもっとも古い《3人のうち2人が歌っている》(1994)

 そして何よりも注目したいのは、特別展示室「觀海庵」だ。原俊夫の曾祖父・原六郎(1842〜1933)が収集した古美術コレクションを中心に展示するこの部屋では、加藤の作品と古美術がコラボレーション。狩野派の《蘭亭図》(16〜17世紀)や《ぶりぶり蒔絵徳利提》(19世紀)といった時代を超えた様々な美術と加藤の作品は、不思議と馴染んで見える。釣り好きの加藤がつくったルアーや草を活けたものなど、珍しい作品と出会うこともできる。

特別展示室「觀海庵」の展示風景より、正面は《無題》(2019)
特別展示室「觀海庵」の展示風景より、下中央が《ぶりぶり蒔絵徳利提》(19世紀)

 加藤は様々な素材を駆使するが、そこには「使えるものはなんでも使う」という考えがある。「油絵具でも黒と白は全然違うわけで、結局はアウトプットで作品ができるかが重要なんです。もちろん素材を選ぶときのジャッジはありますが、それはうまく言葉にできない」。

 日本の美術教育に絶望し、子供が描くような記号的な絵画から始まったという作家人生。モチーフの変化は「絵とのやりとりのなかで進めてきた」。本展は、そんな加藤の25年間の変遷を一望できる貴重な機会だ。

ギャラリーAの展示風景より、《無題》(2004)